探究課題「ネパールの水問題の解決策を考えよう」

世界遺産×SDGsチャレンジ!2023年度の探究課題の一つ「ネパールの水問題の解決策を考えよう」について、ネパール・日本友好協会にお話を伺いました。記事を読み、課題解決策を考えてください。

ネパール・日本友好協会

石岡 博実さん(左) / 金子 真由美さん(右)

—— ネパール・日本友好協会ではどのような活動をされているのですか?

 協会の設立前から、和太鼓を通じてネパールと日本の子供たちが互いの国を訪問する活動を行っていたのですが、交流を深めるなかで「もっとネパールのために」との想いで「ネパール・日本友好協会」を立ち上げ、ネパール政府の認可のもとNGO法人の設立に至りました。

 従来の文化交流に加え、協会として何をすべきか考えたとき、トイレ事情が悪いネパールにバイオトイレを設置しようという案が出てきました。日本国内の専門家とともに現地を訪れて調査を行い、ネパール側との折衝も経て、まずは世界遺産のパシュパティナート寺院にバイオトイレを設置することが決まりました。新型コロナウイルスの影響で設置は延期となってしまったのですが、できれば2023年中には設置にこぎつけたいと思っています。

—— ネパールとはどのような国なのですか?

 ネパールは東西南をインド、北を中国のチベット自治区に囲まれた、東西方向に細長い内陸国です。北側は世界最高峰のエベレストを擁するヒマラヤ山脈がある一方、南部には平野が広がっており、インド洋からモンスーンの影響を受けて雨もよく降るので、多様な自然が見られます。

 国土は大きくはありませんが、たくさんの民族・言語を抱えています。元々ヒンドゥー教が国教だったため(※現在は国教ではない)、一番多いのはヒンドゥー教徒ですが、仏教徒やイスラム教徒も一定の数がいて、宗教的にも多様性があります。ちなみに、仏教を開いた釈迦が生まれたのはネパールです。よく知られているカーストは、国家としては廃止しているという位置づけにはなっていますが、残念ながら身分制度の名残が実社会のなかから完全に消えているとはいえないのが実情です。

 産業は農業が主で、自給自足の生活をしている人がたくさんいます。一方でヒマラヤの登山客の玄関口としての役割も果たしており、観光産業も一定の規模があります。日本とのつながりも強く、ネパールに対する経済援助額はイギリスに次いで日本が世界第2位です。また、ネパールが王政だった時代から日本の皇室との交流もありました。民間レベルでも教育支援などの交流が多く、親日家が多い国です。日本国内に在留するネパール人もとても多いです。

 ちなみに、国旗が四角くないのは世界でネパールだけです。

—— バイオトイレとはどのようなものですか?

 今私たちが設置を進めているバイオトイレは、「水」「電気」「杉チップ」だけあれば使えるものです。用を足した後、水を入れながら杉チップと一緒にし尿をぐるぐると攪拌します。そうすると、杉チップに含まれるバクテリアの働きでし尿が分解され、水に変わっていきます。一度水を入れると、1年間ほどはそれを循環させて再利用できます。

 ネパールにはあまりトイレットペーパーを利用せず、汚れた部分は水で洗い流すという文化があります。トイレットペーパーをバイオトイレで分解するとなるとそれなりに負荷がかかってしまうのですが、そういった面でも私たちのバイオトイレは現地の事情に合っていると考えています。

写真:特定非営利活動法人(NPO法人)グラウンドワーク三島提供

—— なぜネパールにバイオトイレが必要なのでしょうか。

 ネパールでは上下水道設備がうまく稼働していません。外国からの資金援助などにより一応設置はされても、老朽化で故障したときに修理ができず、有効に機能していないという状況があります。結果として、し尿の垂れ流しが常態化してしまっています。それだけでも非常に不衛生なのですが、きれいな水が汚染され、飲み水が手に入りにくくなるという悪循環も引き起こしています。バイオトイレの設置は衛生状態の改善と、安全な飲み水の確保につながるものだと思っています。

—— バイオトイレ設置後の展望を教えてください。

 まずは実証実験として世界遺産のパシュパティナート寺院に1器を設置し、有効性が認められればネパール政府から100器を導入するという話が出ています。ネパールには多くの世界遺産がありますが、観光客がやってきてもトイレ事情が悪いために我慢をすることが多く、何とかホテルに駆け込む、ということもしばしばあります。バイオトイレが増えればそうした状況の改善に役立ちますし、環境の保全にもつながります。

 将来的には、ネパール人自らの手でバイオトイレを製造してもらい、外国に輸出できるような産業に育てる、という目標もあります。

—— ネパールの水問題に関し、バイオトイレ以外のアプローチもあるのでしょうか?

 山梨大学には、長きにわたってネパールの水問題を研究し、国にも提言をしてきた先生がいらっしゃいます。そこにはネパール人の学生も留学しているので、将来自分の国に学びを還元してくれることが期待されます。私たちの団体でも、ネパールの人たちへの日本語教育に力を入れ始めていますが、語学だけではなく、日本の水環境や、水問題に対する取り組みも伝えていきたいと考えています。教育を軸にしたアプローチで、ネパールの水問題が内側からも改善に向かうことを願っています。

—— 高校生・中学生へのメッセージをお願いします。

 物事の課題を本質的に解決しようとするときに大切なのは、まず「知る」ことだと考えています。ネパールの水問題にしても、現地の事情を知らずに解決策を提示することは、本当に現地の方の役に立つのか、という点で疑問符が付いてしまいます。

 また、バイオトイレもそうなのですが、発展途上国に対する支援では外国から新しいものを導入する手法が取られやすいです。その際に私たちが気をつけているのは、「やってあげる/もらう」という上下の関係にならず、あくまで対等な関係でいることです。最終的には「支援」ではなく、ネパールの人たちが自分たちに合ったやり方で「自立」して水問題を解決していくことが大切だと考えています。

 まずはネパールのことをよく調べたうえで、最後にはネパールの人たちが自分たちで持続可能な水システムを運用することをイメージして、何ができるかを考えてみていただけるとうれしいです。

 ネパールへ行くと、日本が資源的にも衛生的にもいかに水環境に恵まれているかを、まざまざと感じさせられます。自分たちの環境を相対化するという意味でも、将来に向けてとても良い勉強になると思いますので、もし機会があれば、ぜひネパール現地も訪れてみてくださいね。