■ 研究員ブログ207 ■ 国際協調を再認識する場になるか、第47回世界遺産委員会

6月とは思えない暑い日が続き、東京では梅雨らしい雨もほとんどないまま7月に入ってしまいました。気候変動による異常気象は、温暖化だけでなく極端化を引き起こしています。猛暑や豪雨が一年に何度も各地を襲うのって変ですよね。

海外に目を向けても、スペインで40℃を超える気温になったほか、フランスのパリで40℃近くまで気温が上がる直前には雹が降る大嵐で道路の冠水や街路樹の倒木などもありました。「地球温暖化や気候変動はデマだ」というのはさすがに無理がある気がします。

ここのところの「異常」は気候だけに留まりません。ウクライナやガザに加えて、イランへの攻撃があって、アメリカが「力による平和」なんて言い出して、それを正当化するために広島や長崎の原爆を持ち出して、G7がそのアメリカにへつらうような態度をとって。

国際協調や国際法が踏みにじられるような状況が続いています。国際協調や国際法の否定を一国のトップや外交官が公然と口にするのは、やはり「異常」な状態だと僕は思うのです。これまで内心で思っていたり、身内や支持者の前で話すことはあっても、公然と口にするなんてことはあまりなかったからです。いい意味でも悪い意味でも、表と裏の顔を使い分けるのが政治家や外交官だったはずです。

こうした国際協調や国際法への信頼が揺らいでいる最中に、パリのユネスコ本部で7月6日から16日までの期間で開催されるのが、第47回世界遺産委員会です。もともとはブルガリアのソフィアで開催される予定でしたが、ブルガリアでの政権交代などもあり準備ができないということで、パリのユネスコ本部での開催に変更されました。議長はそのままブルガリアのニコライ・ネノフ博士が務めます。

ユネスコの活動は、政治的なところは国連に任せて、教育や文化、科学などの点で国際協調を目指すというもので、もちろん世界遺産もその一環です。

しかし、近年の世界遺産委員会では、ウクライナ問題を中心に政治的な問題が持ち込まれ、議論が保護や保全からずれて迷走することがしばしばありました。今回もこのような国際情勢なので、それは十分に考えられます。

今回、世界遺産登録を目指す遺産には、イランの「ホッラマーバード渓谷の先史時代洞窟とファラー・コル・アフラークの関連遺産群(*1)」や、ロシアの「シュルガン・タシュ洞窟の岩絵群」も含まれており、両方とも「登録勧告」は出ていますが、議論は注目されます。

日本は今回の世界遺産委員会まで、委員国を務めます。日本から新規登録の審議が予定されている遺産はありませんが、非常に重要な役割を担うことになります。

登録に関する審議が予定されている遺産は32件で、そのうち26件が新規で推薦されたものです。残りは登録範囲拡大のもの2件と、過去に情報照会または登録延期となったもの4件です。

32件中、登録勧告となっている遺産(登録範囲拡大の承認を含む)は、半分の16件。情報照会勧告が9件あるので、例年の感じからして25件弱が新しい世界遺産として登録されそうです。

その中で注目なのはドイツの「バイエルン王ルートヴィヒ2世の宮殿群:ノイシュヴァンシュタイン城、リンダーホーフ城、シャッヘン城、ヘレンキームゼー城『夢から現実へ』(*2)」と、カンボジアの「カンボジアの記憶の場:抑圧の中心から平和と追悼の場へ」です。

特にカンボジアの遺産は、カンボジア内戦に関係する「記憶の場」の遺産です。新しく始まった「記憶の場」の概念での登録は、不動産というハード面を評価する世界遺産活動で、ソフト面に焦点を当てて評価を行う、非常に挑戦的な取り組みですので、ぜひ注目していただきたいと思います。

ユネスコ憲章の前文には次のように書かれています。

++++++++++
文化の広い普及、そして正義と自由、平和のための人類の教育は、人間の尊厳に不可欠なものであると同時に、全ての国民が互いの援助と関心の精神で果たさなければならない神聖な義務である。
政府間の政治的かつ経済的な取り決めの上にのみ成り立つ平和は、世界中の人々の全員が同意し、長く続き、人々を誠実にサポートする平和ではないだろう。そのため、平和が失われないようにするためには、人類の知的かつ精神的な団結の上に、平和を築かれなければならない。
++++++++++

いいこと書いてありますよね、ほんとに。

このタイミングで、パリのユネスコ本部で開催される世界遺産委員会が、ユネスコの理念を世界が再認識する場になると嬉しいです。皆さんもぜひ注目してみてください。

(2025.07.02)

<関連記事>
■ 研究員ブログ205 ■ 世界遺産委員会の会場が変更されました!

*1) ICOMOSの勧告により「ホッラマーバード渓谷の先史遺跡群」に名称変更して登録される可能性が高い。
*2) ICOMOSの勧告により「バイエルン王ルートヴィヒ2世の宮殿群:ノイシュヴァンシュタイン城、リンダーホーフ城、シャッヘン城、ヘレンキームゼー城」に名称変更して登録される可能性が高い。