いよいよ本会議場での世界遺産委員会が始まりました。これがまた、初日から内容が濃すぎたので、一番の注目点だけに焦点を当てて紹介したいと思います。
まずはユネスコのオードレ・アズレ事務局長の開会のスピーチから始まります。今年、事務局長選挙があるので、恐らく事務局長として世界遺産委員会でスピーチするのはこれが最後になると思います。
ユネスコの世界遺産活動は多国間主義を実現するもので、気候変動や紛争などの現在直面する課題を解決する上で重要です。また中東の遺産は世界遺産全体でみると8%ほどですが、危機遺産の4割を占めており、その多くが紛争によるものです。世界遺産条約の精神を守り保っていくことが今後さらに重要になってきます。ぜひ世界中の文化の多様性と平等な尊厳を守っていきましょう! という国際協調と世界遺産条約の理念の再認識を訴える内容でした。
最初のオブザーバーの承認のところでも、NGOに関してちょっとあったのですが、ここでは省略します。
その後の、世界遺産委員会の議題の承認のところで「明治日本の産業革命遺産」を巡って議論が紛糾しました。
議題の中で保全状況報告があるのですが、これは保全状況報告書が提出された遺産に関して全体で審議されるものです。そこに韓国が「明治日本の産業革命遺産」を議論するように提案し、保全状況報告の審議とは別の「世界遺産委員会の決議の実施状況に関する報告」として加えようとしていました。
これに関しては、昨日のビューロー会議内で日本と韓国がすでにやりあっていたようなのですが、それを知らなかったので突然、議論が始まった感じがしてびっくりしました。
日本としては、2023年の世界遺産委員会の決議に基づき、報告書を2024年12月に提出しており、そこで韓国との2国間の協議を進めていくことで承認されていること、そして世界遺産のOUV(登録された価値)に関係のない議題を世界遺産委員会の場で行うのは委員会の政治化につながるとして、「世界遺産委員会の決定の実施状況に関する報告」自体を削除する修正案を出します。
一方で韓国は、世界遺産委員会で決議された「明治日本の産業革命遺産」の歴史的な解釈の改善を進める方法や展示内容が適切に実施されていないとして、世界遺産委員会の場で「再度」議論をすべきだと強く主張し、日本の修正案には反対します。
実はここで「再度」とは韓国は言っていないのです。この「再度」という点に韓国側は強く反発していて、日本が「再び世界遺産委員会の場にOUVと関係のない議論を持ち込むべきではない」と言ったことに対して、この議論は一度も終わったことがなく、「再び」持ち込むというのはおかしいと何度も主張します。
世界遺産センターやICOMOSなどの意見も求められ、どちらも世界遺産委員会の場ではなく2国間での対話を進めて欲しいというものでした。会場全体の雰囲気も含めて、その話題は日本と韓国でやってよ、という流れになっている感じがしました。
1時間近く議論が行われたあと、結局投票となり、21カ国中、賛成7票、反対3票で、有効票の単純過半数の6票を超えたため、日本の修正案が決議され、「明治日本の産業革命遺産」の審議は行われないことになりました。
この遺産については、いろいろと思うところもありますが、今回は審議予定がなかったのに内閣官房の方も出席すると事前に聞いていたので、こういうことだったんだ! と本当に驚いた午前の部でした。
そんなことで、午前の部は全く予定を消化できなかったのですが、お昼休みは予定通り始まり、午後の部も少し遅れて始まったのに、最終的にはほぼ時間通りに終了するという、海外だなぁと実感する2日目でした。
実は午後もウクライナとロシアの件でいろいろと書きたいことがあったのですが、また別の機会に報告します。
それではまた明日。
(2025/07.07、パリ)