■ 研究員ブログ213 ■ 第47回世界遺産委員会⑥:細かなところまで合意を進めていく審議

今日も朝から気持ちのよい晴天です。いつもお昼ご飯を買うパン屋の前の広場ではマルシェの準備が進んでいました。野菜やフルーツなどいろいろと買いたくなりますが、世界遺産委員会の会場に持って行くわけにもいかないので我慢します。それにしてもマルシェは見ているだけでも楽しい。

今日の審議は、昨日の続きの「ナイロビ宣言」に関する議題からです。最終的に、「遺産と真正性に関するナイロビ宣言」は決議され、次の世界遺産条約締約国会議で議題とされることになりました。

次に、昨日から続く、世界遺産リストに記載された遺産の保全状況報告の審議に入りました。まずは世界遺産センターと諮問機関から危機遺産リスト入りが勧告されていた『オフリド地方の自然及び文化遺産』です。

観光開発や都市部での開発、特にトゥシェミシュトでの5階建ての複合施設の建設や開発地区の管理などが問題視されましたが、両国が対策に取り組んでいることなどから、1年の猶予を与える内容の修正案がトルコとカザフスタンから出されました。審議の結果、2026年2月1日までにアップデートした報告書を出して、それを次回の第48回世界遺産委員会(2026年)で再度審議することで決議され、危機遺産リスト入りはしませんでした。

次に『西天山』と『ハノイにあるタン・ロン皇城遺跡の中心地』、『ホージャ・アフマド・ヤサヴィー廟』、『コトルの文化歴史地域と自然』が審議され、いずれも2026年2月1日までにアップデートした報告書の提出が求められ、次回の第48回世界遺産委員会で再度審議されることになりました。

『ディヤルバクル要塞とヘヴセル庭園群の文化的景観』は次回の第48回世界遺産委員会で危機遺産リストに記載される可能性がありましたが、2026年12月1日までにアップデートした報告書の提出が求められ、第49回世界遺産委員会(2027年)で危機遺産リスト入りも含めて再度審議されることになりました。『コーンウォールと西デヴォンの鉱山景観』も同じく2026年12月1日までに報告書を提出して49回の世界遺産委員会で再度審議されます。

『ダーウェント峡谷の工場群』では日本の修正案に基づき審議が行われましたが、レバノンと意見が分かれ、最後まで細かい文言の修正が続きました。パラグラフごとに、細かい言い回しや単語の入れ替えなど、委員国がコメントしながら合意を作り上げていくのはとても興味深いものでした。この遺産も。2026年12月1日までに報告書を提出して49回の世界遺産委員会で再度審議されることになりました。

審議無しで決議された遺産の中にイランの遺産があったことから、イランが「イスファハーンのイマームの広場」などでイスラエルの攻撃による被害が出ており、平和を目指すユネスコの理念とは相いれないとコメントし、イスラエルがそれに対して攻撃したのは軍事施設だし自分たちもドローン攻撃などを受けていると主張するなどもありましたが、世界遺産の保護の話とはずれるため、それ以上話が広がることはありませんでした。

これで保全状況報告の審議が終わりました。結局今回の世界遺産委員会で危機遺産リスト入りする遺産はなく、危機遺産の数は+0、-3の合計53件となりました。

明日から新規登録遺産の審議を行うために1時間ほど延長して終わりました。たった1時間の延長ですが、お昼以外に休み時間がないのでぐったり疲れてしまいました。明日はいよいよ新しい世界遺産が誕生します。

(2025/07.10、パリ)