■ 研究員ブログ214 ■ 第47回世界遺産委員会⑦:どんどん増えるよ世界遺産

今日からいよいよ、新規登録に向けて推薦された遺産の審議が始まります。会場にはメディアや遺産の関係者の方々が一気に増えて、お祭りのようなにぎやかさがでてきました。僕の前でセキュリティチェックを受けていた中国の方は、お祝いのお酒がカバンから出てきて取り上げられていました(笑)あとで返してもらえるみたいです。

今日はまず登録に関する全体的な話があり、続いて2024年10月までに受理したプレリミナリー・アセスメントの説明がありました。45件受理したうち、文化遺産が34件、複合遺産が7件、自然遺産が4件だそうです。トルコ代表からは、アフリカの遺産のプレリミナリー・アセスメントの申請が増えているのはよい傾向だとのコメントもありました。登録をよりスムーズにするための取り組みですから、プレリミナリー・アセスメントを受けて推薦内容が充実するのはよいことだと思います。

次に暫定リストの提出状況の話があり、その次に遺産名変更の承認があって、オーストラリアの『クガリ(フレーザー島)』が、英語でもフランス語でも『クガリ』になりました。

そしてようやく、新規登録に向けた審議が始まりました。
(※遺産名は仮訳です)

最初は、カメルーンの『マンダラ山脈のディ・ギッド・ビィの文化的景観』です。これはICOMOSからも登録勧告が出ていたので、修正もコメントもなく登録基準(iii)(iv)で登録決議となりました。登録が決議されると、会場全体から拍手が起こり、推薦国が御礼のコメントをします。ここでも議長からコメントは短くとくぎを刺されます。ニュースなどでよく流れるのはこのシーンです。

次が、マラウイの『ムランジェ山の文化的景観』です。これはICOMOSから情報照会勧告が出されていた遺産です。登録基準は認められましたが、真正性や完全性は改善が必要で、マネジメントや保護は不十分という勧告で、バッファー・ゾーンの設定も不十分ということでした。しかし、ケニアがこの地はアフリカでは顕著な景観であり、マラウイも改善措置を行っているため登録すべきとの修正案を出し、各国がそれに賛同して、最終的には登録基準(iii)(vi)で登録決議となりました。2026年12月1日までに改善報告書を提出して、第49回の世界遺産委員会で確認することになりました。

次は、アラブ首長国連合の『ファヤの先史景観』です。これはICOMOSからほぼすべて認められないとする不登録勧告が出されていました。しかし、ザンビアがこの遺産はアフリカとアラビア半島をつなぐ重要な地にあり、先住民にとっても重要な文化的景観であるとして、推薦国の継続的な努力を評価し、登録すべきとする修正案を出しました。それに各国が賛同して、登録基準(iii)(iv)で登録が決議されました。不登録勧告から登録決議まで大逆転でしたが、委員国の中では一貫して「登録」という方向で修正の話し合いが行われていました。これも、2026年12月1日までに包括的な保全報告書を出し第49回の世界遺産委員会で審議するすること、OUVの証明を確定するためにアドヴァイザリー・ミッションの受け入れが要求されました。

長くなりそうなので、ここからは簡単に。

次は、オーストラリアの『ムルジュガの文化的景観』です。ICOMOSからは情報照会勧告が出されていましたが、メキシコなどの修正案に各国が賛同し、登録基準(i)(iii)(v)で登録が決議されました。ここは写真で見ましたが、素晴らしい壁画が残る行ってみたくなる遺産でした。

次は、中国の『西夏王陵群』です。ここはICOMOSから登録勧告が出されていたので、そのまま修正もコメントもなく、登録基準(ii)(iii)で登録決議となりました。これも写真で見て説明を聞きましたが、まだまだこんな遺産が残っていて次々と出てくるなんて、中国の歴史ってすごいな! と驚く遺産でした。

次は、インドの『インドのマラーター王国の軍事景観』です。これはICOMOSから登録延期勧告が出されていて、登録基準も(iii)(iv)(vi)のうち(vi)しか認められないというものでしたが、メキシコなどの修正案を基に議論が行われ、登録基準(iv)(vi)で登録決議となりました。遺産名変更の修正案も出ましたが、最終的には元のままの遺産名で決議されました。

次は、カンボジア王国の『カンボジアの記憶の場:抑圧の中心から平和と反省の場へ』です。ここはICOMOSから登録勧告が出されていたので、そのまま修正もコメントもなく、登録基準(iv)で登録決議となりました。これはクメール・ルージュの歴史を伝える「記憶の場」の遺産ですので、登録されたのは本当によかったです。

次は、イランの『ホッラマーバード渓谷の先史遺跡群(PCFEKV)』です。これはICOMOSから登録基準(v)を除いて登録勧告が出されており、そのまま修正案もなく、登録基準(iii)のみで登録が決議されました。

次は、マレーシアの『マレーシア森林研究所・セランゴール森林公園』です。ICOMOSからは登録基準(ii)(v)は認められず、(iv)も不十分であるとして情報照会勧告が出されていましたが、日本などの修正案を基に議論が行われ、登録基準(iv)で登録決議となりました。遺産名も、最後の「(FRIM FPS)」を外す微修正がありました。

今日の審議はここまでです。

結局、9件が審議され全て登録決議となりました。勧告の内訳は、登録勧告4、情報照会3、登録延期1、不登録1です。基本的に、締約国も登録と保護にむけた努力を行っているため、世界遺産委員会では「登録」に向けてどうするか話し合い、そこで出た修正の提案をあとから締約国がレポートで報告するという流れのようです。

この感じだと明日もどんどん世界遺産が登録されそうですね。

各国のメディアが一気に増えました

(2025/07.11、パリ)