■ 研究員ブログ215 ■ 第47回世界遺産委員会⑧:変化にとんだ今年の文化遺産

来週月曜日がフランス革命記念日なので、今日からフランスでは3連休です。朝、ユネスコに向かって歩いているときも人が少なくて、やはり休みの日の朝という感じでした。でも、世界遺産委員会には関係ありません。今日も引き続き、新規登録に向けた審議が行われます。

今日と明日で新規登録に向けた審議を全て終わらせる必要があるため、時間節約のために登録勧告が出ている遺産については、修正案がなければ基本的には審議せずに決議を行うことになりました。

※以下遺産名は仮訳です。

まず最初は、韓国の『盤亀川(パングチョン)沿いの岩面彫刻群』です。この遺産はICOMOSからも登録勧告が出ていたので、修正もコメントもなく登録基準(i)(iii)で登録決議となりました。ここの岩絵は、生き生きと描かれた動物だけでなく、漢字などもありとても興味深い遺産でした。

次は、ネパールの「ティラウラコ・カピラバツ;古代釈迦王国の考古学的遺跡」です。ここは、比較分析が不十分で登録基準(iv)(vi)共に当てはまらないとして、ICOMOSから登録延期勧告が出されていましたが、委員国から修正案もなく、そのまま登録延期の決議となりました。

次は、タジキスタンの『古代ホタールの文化遺産』です。ここはICOMOSから構成資産を7資産に絞れば登録基準(ii)(iii)が認められるが、それでも登録基準(iv)(v)は認められず、情報照会の勧告でした。審議ではカザフスタンなどの修正案に基づき話し合われ、推薦時の11資産でなければ全体のOUVを証明できないとして、構成資産はそのまま登録基準(ii)(iii)で登録決議となりました。遺産名も「古代ホタール」から変更されました。

次は、ヴェトナムの『イェン・トゥ・ヴィン・ニィエム・コン・ソン、キエップ・バックの記念碑と景観』です。この遺産にはICOMOSから、構成資産11件のうち8件を除けば登録基準(ii)(iii)が認められるが、登録基準(iv)(v)は認められず、真正性と完全性も3資産にのみ認められるという情報照会勧告が出されていました。しかし比較分析やマネジメントは評価されているため、カザフスタンなどの修正案を基に議論が行われ、構成資産3件で登録基準(ii)(iii)で登録が決議されました。

この遺産で興味深かったのが、除外する構成資産をアネックスとして別で書くのか、脚注にするのか、資産名をいれるのか資産番号だけにするのか、また遺産影響評価の扱いなど細かなところで議論が白熱した点でした。

次は、フランスの『カルナックとモルビアン沿岸の巨石群』です。4つの構成資産からなるこの遺産は、ICOMOSから登録基準(ii)を外して登録勧告が出されていましたが、修正案もなく勧告のまま登録基準(i)(iv)で登録が決議されました。登録後、ホールの外でカルナック地方の音楽をバンドが演奏して盛り上がっており、ホールの中まで聴こえていました。

次は、ドイツの『バイエルン王ルートヴィヒ2世の宮殿群:ノイシュヴァンシュタイン城、リンダーホーフ城、シャッヘン城、ヘレンキームゼー城』です。この遺産は、登録基準(i)(ii)(iii)(iv)(vi)で推薦されていましたが、ICOMOSからは(iv)のみで登録勧告が出ていました。これも修正案もなく、登録基準(iv)のみで登録が決議されました。また遺産名からは最後の「夢から現実へ」が削除されました。ルートヴィヒ2世の悲しい物語が余計に宮殿の美しさを引き立てているようで、皮肉にも感じる遺産です。

次は、ギリシャの『ミノア文明の宮殿的中心』です。6つの構成資産からなるこの遺産は登録基準(i)(ii)(iii)(iv)(v)(vi)で推薦されていましたが、ICOMOSからは(iii)(iv)だけ認められる情報照会勧告でした。しかし、ミノタウロスの迷宮の神話の舞台でも有名であることもあり、この遺産を登録することは世界遺産リストを豊かにするという意見も出され、イタリアなどの修正案を基に議論が行われ、登録基準(ii)(iii)(iv)(vi)で登録決議されました。ミノタウロスの神話は芸術や文学にも大きな影響を与えており、そうした遺産を守るのがユネスコの役割であるとの意見もありました。ミノタウロスの神話の舞台が世界遺産になったことは、確かにワクワクしますよね。

次は、トルコの『サラディスとビン・テペのリュディアの墳墓群』です。2つの構成資産からなり、登録基準(ii)(iii)(iv)(vi)で推薦されていましたが、ICOMOSからは登録基準(iii)のみで登録勧告が出されていました。これも修正案が出なかったため、登録基準(iii)で登録決議となりました。

次は、ポーランドの「グディニャ:初期モダニスト都市の中心部」です。これはICOMOSから情報照会勧告が出されており、修正案もなくそのまま情報照会決議となりました。

次は、ポルトガルの「アルヴァロ・シザの建築:モダン文脈主義の遺産」です。今まだ92歳で存命中の建築家アルヴァロ・シザの作品群ですが、ICOMOSから登録延期勧告が出されており、そのまま修正案もなく登録延期決議となりました。

次は、ロシアの『シュルガン・タシュ洞窟の岩絵群』です。これもICOMOSから登録勧告が出されており、修正案もなく登録基準(iii)で登録決議となりました。

次は、イタリアの『先史時代のサルディーニャの葬送の伝統:ドムス・デ・ヤナス』です。26の構成資産で登録基準(ii)(iii)(vi)で推薦されていましたが、ICOMOSからは登録基準(iii)のみ、それも「ドムス・デ・ヤナス」のみに認められるという情報照会勧告でした。審議ではギリシャなどの修正案を基に議論が行われ、構成資産を18件に絞って登録基準(iii)で登録決議されました。また遺産名も「先史時代のサルディーニャの芸術と建築:ドムス・デ・ヤナス」から変更されました。

次は、メキシコの『聖地を通りウィリクタに通じるウィハリカの道(タテワリとウアフイエ)』です。これは20の構成資産からなる道の遺産で、ICOMOSからは登録基準(iii)(v)(vi)のうち(iii)(vi)のみ認められる登録勧告でしたが、名称変更の修正案のみジャマイカとベルギーから出され、登録基準(iii)(vi)で登録決議となりました。

次は、ジャマイカの『17世紀ポート・ロイヤルの考古学的景観』です。これは1692年の地震で一部が海と砂の下に沈んでしまった遺産で、これまでも2度推薦していましたが登録延期勧告になっていました。ICOMOSからは登録基準(iv)(vi)が当てはまるという登録勧告で、修正案もなくそのまま登録基準(iv)(vi)で登録決議されました。登録後に同じカリブ海地域のセント・ヴィンセント・グレナディーンが長い苦労を労って祝福のコメントをしたことは感動的でした。

次は、パナマの『パナマの植民地時代の地峡横断ルート』です。これは少し複雑な遺産です。まず、既に世界遺産になっている『パナマ・ビエホ考古遺跡とパナマの歴史地区』に「十字架の道」の3つのルートや、別の世界遺産『パナマのカリブ海側の要塞群:ポルトベロとサン・ロレンツォ』のサン・ロレンツォ要塞を範囲拡大として加えようとしていました。一方、それとは別で『パナマの植民地時代の地峡横断ルート』も登録に向けて動いており、2019年の第43回世界遺産委員会で審議されて登録延期決議となった後、2024年の第46回世界遺産委員会でも情報照会決議でした。

それが今回ICOMOSからは、登録基準(ii)(iv)(vi)のうちの(ii)(iv)のみで登録勧告が出されており、審議を経て登録基準(ii)(iv)で登録決議となりました。議論となったのは、決議文に、既に登録されている『パナマ・ビエホ考古遺跡とパナマの歴史地区』も『パナマの植民地時代の地峡横断ルート』の一部に含まれると記載された点です。これも二重登録のひとつなのですが、決議文の修正で追記されるのはとても珍しいと思います。

※『パナマの植民地時代の地峡横断ルート』について、審議を聞いたときは上記のように理解していたのですが、13日の審議で僕の理解不足が露呈する驚きがあったので、研究員ブログ216をご確認ください。

これで、今回の文化遺産の審議がすべて終わりました。今日の審議では15件が審議され、登録12件、情報照会1件、登録延期2件の決議でした。昨日の分と合わせると登録決議は21件です。

振り返ってみると、今回の文化遺産は、ノイシュバンシュタイン城やミノタウロス関連のクレタ島の遺産など有名な遺産もあり、クメール・ルージュ関連の「記憶の場」があり、道の遺産があり、二重登録の遺産があり、サルディーニャやカルナックのようなその国の主流ではない文化の遺産があり、非常に変化に富んでいて面白いものばかりでした。

明日は複合遺産と自然遺産です。これまた楽しみですね。

(2025/07.12、パリ)