2020年 6月『アムステルダム中心部:ジンフェルグラハト内部の17世紀の環状運河地区』

アムステルダムの運河に「ボートの家」ができた理由


 オランダの首都アムステルダムを訪れたら、皆さんはどこへ行ってみたいと思いますか? レンブラントの「夜警」やフェルメールの「牛乳を注ぐ女」などが所蔵されている「国立アムステルダム美術館」でしょうか?あるいは『アンネの日記』で知られるアンネ・フランクがナチス・ドイツの迫害から逃れて屋根裏に隠れて暮らしたアパートを訪ねたいという人もいるでしょう。

アムステルダムの運河に浮かぶ「ボートの家(ハウスボート)」

 個人的には運河に浮かぶ「ボートの家(ハウスボート)」に行ってみたいです(写真上)。こんな水上の家で暮らしたら、楽しそうじゃありませんか。
 じつはこの「ボートの家」は古い歴史をもつものです。オランダが海洋国家として黄金期を迎えていた17世紀から存在していたという記録が残っています。なぜ当時の人々は運河の上のボートで暮らそうと考えたのでしょうか?
 答えは「土の上に住む場所がなかったから」です。もともとアムステルダム中心部の運河地区は、沼だったところを埋め立ててつくった場所です。しかし、いくら土地を埋め立てて市街地域を広げても、当時繁栄の極みにあったアムステルダムには追いつかないほど多くの人が流入してきました。そこで水上に船を浮かべてそこに住もうという人が出てきたのです。

17世紀のアムステルダムの地図

アムステルダムの運河を守る日本の技術


 オランダが東インド会社などを設立し、黄金期を迎えていた16世紀末~17世紀に築かれたこのアムステルダムの運河地区は世界遺産にも登録されています。『アムステルダムの中心部:ジンフェルグラハト内部の17世紀の環状運河地区』です。埋立地は先に述べたような理由で拡張を続け、運河は一番外側の「ジンフェルグラハト」まで環状に広がっています。

環状に広がるアムステルダムの運河 ⒸAmsterdam Municipal Department for the Preservation and Restoration of Historic Buildings and Sites (bMA)

 2020年の5月、このアムステルダムの運河の護岸改修に日本企業の技術が採用されることが決まったと発表されました。高知市に拠点を置く技研製作所の技術です。
 17世紀頃に築かれたアムステルダムの運河の護岸は、レンガや盛り土、木の杭でできており、近年は杭の腐食などが進み、護岸の崩落が相次いでいました。しかし、改修工事は景観を損なう恐れのある工事が壁となり進んでいなかったといいます
 そこでアムステルダム市は2018年から、運河の護岸改修工事を加速する新技術開発をテーマに提携するパートナー企業を募集しました。技研製作所は、現地企業2社と共同事業体をつくって応募し、約1年半の審査の結果、参加16グループ中で最高の評価を得てパートナーに選ばれました。

アムステルダム運河の護岸改修工事 施工のイメージ図

 評価のポイントとなったのが、世界遺産登録エリアの「景観」を守るという点だといいます。従来の工法では、仮設護岸を設置した後に、既存の護岸を撤去し、新しい護岸をつくっていくという工程が必要でした。これだとアムステルダムの運河の景観を損ねてしまう懸念があります。
 一方、技研が提案した工法は、直接既存の護岸を貫いて杭を圧入できるため、仮設護岸や撤去工事が不要です。また施工した杭上を自走でき、運河沿いのスペースや仮設桟橋を必要としません。これによって「景観」への工事の影響を最小限に抑えることができるといいます。
 世界遺産を訪れたとき、補修・改修工事をやっていて、目当ての建造物が見れないといったことがたまにあります。世界遺産の目的が「保存」にあることを考えれば、これは仕方がないことです。しかし景観を守りながら工事を行ってくれるのであれば、それに越したことはないでしょう。そうした意味でも、今回のアムステルダムの取り組みは興味深いと思います。

(世界遺産検定事務局 大澤暁)

アムステルダムの中心部:ジンフェルグラハト内部の17世紀の環状運河地区
登録基準:(i) (ii) (iv)
登録年:2010年登録
登録区分:文化遺産

次回の更新は2020年7月下旬を予定しています。

例題

Q1.世界遺産『アムステルダムの中心部:ジンフェルグラハト内部の17世紀の環状運河地区』がある国として、正しいものはどれでしょうか。 (3級レベル)
  1. フランス共和国
  2. アメリカ合衆国
  3. オランダ王国
  4. ロシア連邦
世界遺産に登録されているアムステルダム中心部の環状運河地区の、一番外側の運河の名称として、正しいものはどれでしょうか? (2級レベル)
  1. ジンフェルグラハト
  2. ジュガンティーヤ
  3. ネクロポリス
  4. ジッグラト
Q3. 世界遺産に登録されている「アムステルダムの中心部」の運河地区が、先進的な港湾都市プロジェクトとして建設された時代はいつでしょうか? (1級レベル)
  1. 12~13世紀
  2. 14~15世紀
  3. 16~17世紀
  4. 18~19世紀