第63回世界遺産検定の申込受付が始まりました。今回のメインビジュアルは『グレート・バリア・リーフ』です。青々とした海に世界最大規模のサンゴ礁が広がる、オーストラリアを代表する自然遺産です。サンゴ以外にもジュゴンなどの絶滅危惧種が生息し、豊かな生態系が見られることでも知られます。

グレート・バリア・リーフの一帯は古来よりアボリジニの漁場となっていました。西洋人でグレート・バリア・リーフに関する最初の記述を残したのは、1770年の航海中に航海日誌に記録したジェームズ・クック(キャプテン・クック)です。彼は航海中にこの地で座礁しました。それがきっかけとなり、グレート・バリア・リーフは世界的に知られるようになりました。「グレート・バリア・リーフ」の名前は英国人探検家のマシュー・フリンダースによって1802年に命名されました。

グレート・バリア・リーフには近年、大きな危機が迫っています。サンゴの大幅な減少です。その大きな理由となっているのが、地球温暖化による「サンゴの白化現象」です。サンゴの白化現象とは、サンゴと共生関係にある藻類の褐虫藻(かっちゅうそう)が、海水温の変化などによってサンゴから離れることで、栄養分や酸素の供給が受けられずに白くなる現象です。多くのサンゴはその後死んでしまいます。また、大量発生したオニヒトデによる食害も深刻化しています。
先日オーストラリア海洋科学研究所が出したレポートによると、近年サンゴ礁の白化現象がグレート・バリア・リーフにおいて過去最大規模で進んでいると言います。2024年の夏には地球規模でサンゴの白化現象が発生しました。世界規模で白化現象が起こることは珍しく、数十カ国に影響が及び、グレート・バリア・リーフも甚大な被害をこうむりました。オーストラリア海洋科学研究所によると、グレート・バリア・リーフは3つの主要地域でサンゴの被覆率が4分の1から3分の1減少したそうです。特に深刻な被害を受けたサンゴ礁では、サンゴの70%が失われたと言います。

さらに2025年南半球の夏季に、グレート・バリア・リーフでは再び平均を上回る水温(海面水温異常値+1℃~+2.5℃)が発生し、その結果2016年以降6度目となる大規模なサンゴの白化現象が発生しました。これがサンゴ被覆率へどのように影響したかは来年解明される予定です。オーストラリア海洋科学研究所は、「グレート・バリア・リーフが回復不能な地点に達する可能性が高まっている」と警鐘を鳴らしています。UNESCO世界遺産センターもグレート・バリア・リーフに対して危機遺産入りを求める勧告を毎年のように出しています。

このようにかなり危機的な状況にあるグレート・バリア・リーフですが、わずかに希望がもてる研究論文が先日発表されました。クイーンズランド大学の研究者などによる研究で、パリ協定で掲げられたように地球温暖化を2℃以下に抑えられれば、2040~2050年頃まではサンゴの減少に見舞われるものの、環境への適応が進み、その後回復する可能性があるというものです。

一方で国連の報告書によると、現状のCO2排出量が続けば、今世紀末までに地球の気温が約2.8度上昇する見込みであるとされます。2.8程度気温が上昇した場合、サンゴ礁の回復は起こらず、今世紀末にはサンゴ被覆率は大幅に減少し、わずか4%程度になってしまうと、この論文では指摘しています。 つまりこの研究が示していることは、グレート・バリア・リーフなどの美しいサンゴ礁を守っていくためにも、パリ協定の目標、気温上昇を2℃以下に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を継続することが大事だということです。世界各国において更なるCO2排出量削減の取り組みが求められます。
グレート・バリア・リーフ
登録基準:(vii)(viii)(ix)(x)
登録年:1981年登録
登録区分:自然遺産