6月17日から申込受付が始まった、第65回世界遺産検定のメインビジュアルは、ベトナム『フエの歴史的建造物群』です。フエはベトナム中部に位置していて、1802年から1945年のグエン朝の時代の首都でした。日本でフエはよく「ベトナムの京都」と言われますが、19世紀初頭に誕生したグエン朝の都ですので、京都ほど古い都ではありません。

さて、このメインビジュアルの写真は、『フエの歴史的建造物群』の何という建物かご存じでしょうか? きらびやかな空間に人をかたどった像が座っています。東洋風の装飾でありながら、どこか西洋風な感じもある、不思議な建物ではないでしょうか?
答えは「カイディン帝陵」です。カイディン帝というグエン朝の12代皇帝の陵墓です。この不思議な建物については、後で解説しますが、まずは『フエの歴史的建造物群』の概要をつかんでおきましょう。

フエは1802年にベトナムを統一したザーロン帝により、グエン朝の首都として創設され、1993年にベトナムで最初の世界遺産として登録されました。中心となるのがフエの中心部よりやや南に位置する王宮です。北京の紫禁城(故宮)をモデルとして造られたといわれます。王宮には「午門」や「太和殿」といった北京の紫禁城と同じ名称を持った建物も見られ、類似性を感じることができます。王宮はベトナム戦争で壊滅的な被害を受けましたが、日本の早稲田大学のユネスコ世界遺産研究所などの協力によって、かつての建物が復元されています。

フエの特徴は、碁盤目状の構造など中国的な街並みを基本としながらも、フランスの「ヴォーバン式」の城郭に囲まれている点です。「ヴォーバン式」とはルイ14世に仕えた軍事技術者セバスチャン・ル・プレストル・ドゥ・ヴォーバンが開発した要塞システムです。ヨーロッパのみならず、日本を含む世界中の軍事建築に影響を与えました。彼の設計した城砦は『ヴォーバンによる要塞建築群』として、世界遺産に登録されています。

なぜフランス式築城方法が取り入れられているかというと、グエン朝がフランスの影響を強く受けた王朝だからです。1858年以降はフランスの侵攻を受けて、グエン朝はフランスの保護国となりました。
1916年にフランスによって12代皇帝に擁立されたのがカイディン帝です。カイディン帝は1922年、フランスのマルセイユでの博覧会に参加するために、初めてフランスを訪れます。そこで見たフランスの建物に感動し、ベトナムに戻ってからは、フランス文化の導入を進めました。

芸術を深く愛したというカイディン帝が心血を注いで造ったのが、自身の陵墓である「カイディン帝陵」です。ここにはバロック様式が用いられています。バロック様式とは、過剰な装飾や凹凸の強調、絵画などによる内装を特徴とする建築様式です。フランスでは「ヴェルサイユ宮殿」がバロック建築の代表とされます。「カイディン帝陵」の内部は、バロックの典型といって良いほど、華美な装飾が見られます。

カイディン帝陵にはモザイク装飾という、磁器や瓶の破片を使った装飾が用いられています。皇帝陵のモザイク装飾には高価なワイン瓶や中国製磁器の破片が用いられましたが、カイディン帝陵では「日本のビール瓶」の破片も使われています。近づくと「BREWARY」「TOKYO」という文字がガラス片に刻まれているのがわかります。どのようにして日本のビール瓶がベトナムのフエにたどり着いたのか? なぜ皇帝の陵墓で使われるようになったのか? 現地を訪れた際は、カイディン帝陵のモザイク装飾のビール瓶の破片を探しながら、歴史の不思議を感じてみてはいかがでしょうか。
フエの歴史的建造物群
登録基準:(iv)
登録年:1993年登録
登録区分:文化遺産