2019年6月『ラパ・ニュイ国立公園』

2019年6月『ラパ・ニュイ国立公園』

『 モアイ像を救った四国のクレーン・メーカー 』

今なお解けない“モアイの謎”

巨大なモアイをどう動かしたかは「発見」当初から謎だった(「モアイ像の測定をする人」18世紀の版画)
 今回とりあげる世界遺産はモアイ像で有名な『ラパ・ニュイ国立公園』です。皆さんはモアイの実物を見たことがありますか? 高さは平均で約4~5メートル、大きいものだと20メートル以上のものもあります。重量は20トンほどが一般的といわれます。
 そんなに巨大で重いモアイ像を昔の人たちはどうやって動かしていたのでしょうか。これはだれもが一度は抱く疑問でしょう。じっさいにモアイが西欧人によって「発見」された当初から不思議に思われてきました(※ラパ・ニュイ国立公園のあるパスクア島は1722年オランダ人によってイースターの日に「発見」された。日本では英語名のイースター島で広く知られている)。キャプテン・クックの愛称をもつジェームズ・クック(1728-1779)は探検記にこう記しています。
「機械力に関する知識のない民族が、このようにすばらしい巨像を立て(中略)、頭の上に円筒形の石をのせた、ということはほとんど想像を絶している」 『クック 太平洋探検』岩波文庫
 クレーン車も大型トラックもない時代に、モアイ像をどのように動かしていたかは、現在でも謎に包まれたままです。学者たちはさまざまな学説を発表していますが、はっきりしていません。こうした神秘のヴェールに包まれているところが、今なお多くの人がモアイにひきつけられる理由のひとつでしょう。
祭壇の上に立ち並ぶ「アフ・トンガリキ」のモアイ像 16世紀以降「フリ・モアイ」によってモアイ像は倒された

モアイ像を救った日本企業とは!?

 さて、『ラパ・ニュイ国立公園』には900体ほどのモアイ像が残っていますが、観光客に一番人気なのが「アフ・トンガリキ」という遺跡です。ここはイースター島でも最大級の遺跡で、高さ5メートルを超える巨大な15体のモアイが祭壇の上に整然と並んでいます。映像や写真でよく見かけるイースター島そのままの景色が広がっており、絶好のフォトスポットとなっています。 しかし、このアフ・トンガリキの遺跡ですが、もともとこのように美しい景観をしていたのではありません。モアイ像は地面に倒れ、ガレキに埋もれ、無残な状態で放置されていました。この悲惨な状態からモアイを救い出したのが、ある日本企業でした。
 1980年代の話です。当時イースター島知事をつとめていたセルジオ・ラプさんは、地面に倒れたままのモアイに頭を悩ましていました。16世紀ごろに対立する部族間でモアイを倒し合う「フリ・モアイ」という争いが起こり、19世紀半ばには1体残らず倒されてしまいました。モアイの多くはその時倒されたままになっていたのです。さらに、アフ・トンガリキは1960年のチリ地震によって発生した津波に襲われたため、モアイが立っていた祭壇は壊れ、モアイはガレキに埋もれてしまいました。セルジオ・ラプ知事はモアイ像を動かして、もとの通り立て直したいと考えていましたが、モアイを動かすための機械もそれを購入するための資金もありませんでした。テクノロジーの発達した現代といえども、モアイを動かすのは簡単ではないのです……。
四国のクレーン・メーカーがモアイ立て直しに名のり出た 2台目のクレーンの寄贈式典(右:イースター島知事カロリーナ・ホトス氏、左:タダノ社長 多田野宏一氏)
 そんなときイースター島を日本のテレビ番組(『世界ふしぎ発見!』)制作スタッフが訪れました。取材を受けたセルジオ・ラプ知事は制作スタッフに、倒れているモアイを立て直したいが、自分たちの力だけではどうにもならないと悩みを伝えました。すると、テレビの制作スタッフは日本の視聴者に知事の気持ちを伝えましょうと請け負ってくれました。じっさい番組中でセルジオ・ラプ氏より“日本の皆さんへ”と題したメッセージが流れ、「クレーンがあれば倒れたモアイ像を起こせるのに」と伝えられました。
 これが思わぬ反響を呼ぶことになりました。香川県に本社を置くクレーン・メーカーのタダノの社員が番組を見て、自社のクレーンを使ってモアイ像を立て直すプロジェクトを行うことを決めたのです。1988年にテレビ番組をきっかけにはじまったこのプロジェクトは、さまざまな困難にぶつかりながら、じつに7年の時をかけて完成します。アフ・トンガリキの15体のモアイ像は今見る姿に立て直されました。かかった費用は1億8,000万円。プロジェクトが終了した年に、奇しくも『ラパ・ニュイ国立公園』は世界遺産リストに登録されました。
 その後も、2006年にはタダノからイースター島へ2台目のクレーンが寄贈されるなど、両者の友好関係はつづいています。観光客を魅了する巨大なモアイ像を動かし、立て直したのは、四国の一企業とイースター島の友好の力だったのです。

(世界遺産検定事務局 大澤暁)

『ラパ・ニュイ国立公園』に関する 検定の問題はコチラ

ラパ・ニュイ国立公園 (中南米・カリブ海地域/チリ共和国) 登録基準:(i) (iii) (v) 登録年:1995年登録 登録区分:文化遺産

今月の遺産検定「ラパ・ニュイ国立公園」 今月の遺産検定「ラパ・ニュイ国立公園」

『ラパ・ニュイ国立公園』に関する例題

Q1. 16世紀頃に始まった、お互いのモアイを倒し合う、部族間の争いを何というか?
    1. (3級レベル)
  1. ワット・マハータート
  2. フリ・モアイ
  3. ディアスポラ
  4. リンクシュトラーセ
Q2.「ラパ・ニュイ」とは先住民の言葉でどんな意味があるか?
    1. (2級レベル)
  1. 輝ける偉大な島
  2. 美しく豊かな海
  3. おだやかで平和な村
  4. 神々が暮らす山
Q3. モアイ像の制作に使われた岩はどんな種類の岩だったか?
    1. (1級レベル)
  1. 石灰岩
  2. 砂岩
  3. 泥岩
  4. 凝灰岩
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