世界遺産検定マイスターレポート

世界遺産検定 せかけんマイスターレポート第1回:写真家 小泉 澄夫さん×マイスター 塩澤 輝幸さん

「風景の目利き」の第一人者として、遺産の本質を捉えたい。文化遺産の本質は、「為政者と生活者との関連性」

 塩澤輝幸さん(以下、塩澤)/世界遺産検定の勉強をした際、小泉さんのご著作である「世界遺産ビジュアルハンドブック」は多いに助けになったとともに、その写真の美しさにも感銘を受けました。小泉さんが、世界遺産に関わられるようになったきっかけや、どんなことに気をつけて撮られているのかをまずはお聞かせください。

写真家・小泉澄夫さん×世界遺産マイスター・塩澤輝幸さん

 小泉澄夫さん(以下、小泉)/ある旅行会社から「海外旅行に同行して、お客様の写真撮影の指導をしてくれないか」という依頼を受けたのがきっかけです。海外旅行の中でもヨーロッパ地域は世界遺産をはずしては成り立ちませんので、ヨーロッパ旅行に同行をしているうちに自然と世界遺産との関わりができました。今でも世界遺産を撮り続けているのは、歴史、特に西洋史が好きだからだと思います。

 写真家はなんでもない風景からも固有の美を見出すことができる、「風景の目利き」の第一人者であるべきだと思っています。世界遺産の多くは「絶景」であることから、その風物に寄りかかって撮ってしまいがち。だからこそ私は、世界遺産を撮る際は「絶景を撮る」といった意識をあえて避けているんです。

 ところで、塩澤さんは世界遺産検定に加え、日本史検定、世界史検定も取得されてらっしゃるとお聞きしました。私と同じく歴史に興味がおありなのでしょうか。

 塩澤/ええ。私は高校が理系でしたので、歴史を勉強する機会はほとんどありませんでしたが、ジャンルを問わずいろんなことに興味、関心を持っていましたので、幅広い分野に触れることができる世界遺産に惹かれ、世界遺産検定の勉強を始めました。勉強して感じたのは、世界遺産を理解するには、歴史の知識は不可欠ということ。そこで歴史の面白さに目覚めました。小泉さんは西洋史のどういったところに魅力を感じられてらっしゃいますか。

 小泉/西洋文明は長きにわたり、世界のあらゆるところに影響を及ぼしています。私はその文明が、ひいては西洋というものが、いかにして形成されたのかという過程と、そこにある「本質」に関心を持っています。本質とは、突き詰めると為政者と市民、つまり「為政者と生活者との関係性」のように思います。

世界遺産ローマ歴史地区
ローマ歴史地区(小泉さん撮影)。西洋史に関心が深い小泉さんにとって、ローマは、まさに「永遠の都」。「ローマの遺跡に佇むだけで感動した」と語る

 塩澤/小泉さんの作品で遺産単体ではなく、周辺で屋台を出している人など何気ない街の様子も取り入れた写真が多いのは、「生活者」への視線があったからでしょうか。

 小泉/そうですね。ローマ時代は為政者が生活者のために社会インフラ整備に熱心だった時代。その成果が世界遺産となっていますよね。特に文化遺産の多くは、戦争や奴隷制を伝える負の遺産も含めて、当時の為政者と市民の関係性を象徴したものであるように思います。私にとってそれが「本質」。「本質」を捉えるということが、写真家として大切だと思っています。

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世界遺産に関わって暮らす人々の想いや習慣を知ることが、観光マナーの向上につながる

世界遺産について意見を交わす、小泉・塩澤両氏

 塩澤/私は世界遺産検定のマイスターに認定されてから、世界遺産の魅力や意義をできるだけ多くの人にお伝えしたいと思い、インターネット上での情報交換フォーラム、アルコムワールドの「世界遺産マラソン」の管理人に立候補しました。小泉さんが写真で「本質」を伝えるように、私もこの活動を通して、「遺産には背景があり、そこには現在も暮らしている人々がいることを忘れてはならない」ということを伝えたいと考えています。世界遺産が観光地化し、多くの人が訪れるようになった今だからこそ、観光客とそこに暮らす人の調和についてはもっと考えなくてはならないと思います。

小泉さんは撮影旅行の際に、現地の人々と観光客との意識の違いを感じられたことはおありですか?

 小泉/ヨーロッパには世界遺産に登録されている教会が少なくありませんが、そこでは現在もミサが行われています。当然ミサの最中は、音を出すことは厳禁なのに、「カチャ」というシャッター音を聞くことがよくあります。そのあたりは気をつけるべきだと思います。考えてみてください。寺院の本堂で読経している時に、シャッター音をたてる人はいないですよね。ミサもそれと同様なんです。寺院の読経は比較的生活習慣になじんでいるものなので自然に気をつけるけれど、異なる習慣であるミサとなると、ピンとこなくてマナー違反をしてしまう、ということかもしれません。世界遺産の意味を知り、そこに暮らす人の文化を「知る」ことがいかに大切か、ということですね。

グラナダのアルハンブラ宮殿
スペイン・グラナダのアルハンブラ宮殿(小泉さん撮影)。名称のもとになった城壁の赤褐色石の輝きが見事に映しだされている

 塩澤/「知る」ことの大切さ……。自分の知識をもっと深めると同時に、多くの人に「知る」ことの意味を理解してもらえるよう努力したいと思います。

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写真家として、マイスターとして――世界遺産を守る側にもさまざまな視点からの知恵が必要

 塩澤/観光化と保護の調和を図るためには、観光客側だけではなく、保全する側、自治体などの知恵の向上を図ることも重要だと感じるのですが、小泉さんはどうお考えですか?

 小泉/おっしゃるとおりだと思います。私は写真家として某都道府県の景観を守る公共機関に対して講演を行う機会がありましたが、世界遺産をはじめとする地域固有の魅力を守るためには、さまざまな視点からの知恵が必要だとお話しました。マイスターの中には、遺産の保全に関わりたいと考える方もいらっしゃると思いますので、そういった方たちの視点も重要視するべきだと思います。世界遺産検定の勉強は、ひとつの学問として成立するほどの広さと深さがある。それを極めたマイスターは博士号にも匹敵すると思いますので、今後「世界遺産検定」がさらにメジャーになり、マイスターがオーソライズされることに期待しています。

 塩澤/「博士」を名乗るには、到底力不足ですが(笑)、世界遺産アカデミーさんの協力を得て、自治体などに対する働きかけもできればいいなと考えています。最後に、私を含め、読者の皆さんに世界遺産の写真を撮る際の秘訣を教えていただけないでしょうか?

アマルフィ
イタリア・アマルフィ(小泉さん撮影)。背後に山が迫る斜面都市であったからこそ、海洋国として発展した歴史が見てとれる一枚

 小泉/ひとつあるとすれば、光を背にして撮ること。逆光ではなく、順光で撮る。写真学校では、「写真は光を撮るもの」と教えられますが、写真は対象の本質を撮るものだと思っています。光はその補助者。世界遺産の本質を知って撮るということにおいては、深い知識をお持ちの塩澤さんは、最初のステップはクリアしていらっしゃる。プロ以上のすばらしい写真が撮れるはずですよ。

 塩澤/技術がないので、ご期待に沿えるかどうか自信はありませんが、どんどん撮影して、小泉さんにもぜひ見ていただきたいと思います。本日はありがとうございました。

text by梅村 千恵

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小泉 澄夫さんプロフィール

小泉 澄夫さんプロフィール

1934年生まれ。「日本人の心」をテーマとする風景写真を30年以上も撮り続け、 ここ15年ほどは欧州、北米、中国を中心に世界遺産の撮影に取り組んでいる。 世界写真フォーラムを主宰するかたわら、講演や執筆などを積極的に行っている。 日本写真芸術学会会員。

塩澤 輝幸さんプロフィール

世界遺産検定マイスター・塩澤 輝幸さんプロフィール

1977年生まれ。第2回世界遺産検定でシルバー(現2級)を取得し、同検定の第3回で プラチナ(現1級)、第4回でマイスターに認定される。現在は医療系勤務。 マイスターとしてインターネット上での情報交換フォーラム、アルコムワールドの 「世界遺産マラソン」の管理人を務める。

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