■ 研究員ブログ197 ■ 今が出会うタイミング、特別展「中尊寺金色堂」

8KCG:©NHK/東京国立博物館/文化財活用センター/中尊寺

2024年は驚きのニュースの連続で幕を開けました。特に能登半島地震で被災された方々の心痛は推し量るに余りあり、ただ一日も早い復興をお祈りしています。

ここから話を始めるのはとても難しいのですが、僕がいつも思っているのは、物事には相応しいタイミングがあるのではないかということです。

以前ある街で、公園にダビデ像やミロのビーナス像を設置したところ、「子供の心に悪影響があるのでは」とか「せめてパンツをはかせてほしい」など、住民から苦情があったとの報道がありました。他にも、世界的なヴァイオリニストのジョシュア・ベルが、アメリカのワシントン駅の構内で素性を隠しストリートミュージシャンとして演奏したところ、ほとんど誰も足を止めなかったなんて記事もありました。どちらも芸術鑑賞には相応しい環境やタイミングがあるのでは?というものです。

そんな大げさな話じゃなくても、留学中の異国の映画館でびっくりするくらい心が震えた映画や、子供の頃からお世話になった友人の母が亡くなった翌日にコンサートホールで聴いたモーツァルトのレクイエム、鬱々とした大学院生の時に深夜の寒いアパートで一気に読んでしまった小説など、その時に出会ってよかった映画や小説、音楽が僕にもあります。別のタイミングだったら、あそこまで心を動かされなかったかもしれない。上野公園を歩く帰り道でそんなことを考えたのが、今回観た「建立900年 特別展『中尊寺金色堂』」です。今、観ることができて本当によかったと思えたのです。

中尊寺は、戦乱の中を生きてきた藤原清衡が現世に浄土(仏国土)を築こうと大伽藍を建立したことがその始まりとされる寺院です。その根底には、多くの合戦の中で命を落とした人々を敵味方の区別なく弔い慰める「怨親平等」という藤原清衡の思想があります。

浄土思想というのは、煩悩に穢れた穢土(現世)から阿弥陀仏の浄土(仏国土)に往生することで成仏することを願う思想です。平安時代末期に浄土思想が広がった背景には、戦乱や災害が続く現世が人々にとってあまりに厳しい環境だったことがあります。現世ではなく来世に願いを託したとも言えます。しかし藤原清衡が目指したのは、平泉の地で来世の理想郷(極楽浄土)を現世に実現しようとすることでした。現世に希望を取り戻すという思いもあったのかもしれません。浄土思想に全く詳しくないため違っているかもしれませんが、特別展「中尊寺金色堂」の展示を観ながらそう感じました。

今回の展覧会の見どころは大きく2つあります。

1つ目は、金色堂の中央壇に安置されている国宝の仏像11体が初めて揃って展示されている点です。普段は離れた位置からガラス越しにしか拝むことのできない仏像を、本当に間近で螺髪のひとつひとつ、衣のひだのひとしわ、もっと言うとその瞳の奥までじっくりと観ることができます。

阿弥陀如来坐像のふっくらと柔らかい表情や彫りの浅い滑らかな衣など見飽きることがありません。また、6体の地蔵菩薩立像は一体ごとに表情や顔を出す角度、姿勢などが異なっており、本当に仏さまが並んでいるようです。本来であれば縦に3体ずつ並んでいるところ、今回は横並びで展示されているので、じっくり見比べながらそれぞれの仏さまの性格までイメージできるようでいつまでも目が離せなくなってしまいました。

2つ目はNHKが制作した、金色堂の原寸大の8K映像です。この迫力がすごい! 仏像を1体ずつ撮影してそれを組み合わせているので、仏像がそれぞれ立体的に浮かび上がってくるようで、ものすごい臨場感があります。中尊寺に行っても、あの距離であの迫力で観ることはできないので、短い映像を注目する場所を変えながら何度も繰り返して観てしまいました。

展覧会自体は小さなものなのですが、魅力はまだまだたくさんあります。

僕が一番気に入ったのは、増長天像と持国天像の二天像です。表情やポーズ、衣の揺れ具合など躍動感があって、まるで邪鬼の上で踊っているようなのです。小さなレプリカがあったら買って帰りたかったくらい。みなさんもぜひ踊る二天像を観てみてください。普段は観られない後ろからの姿を観ると、腰の角度など本当に今にも動き出しそうで可愛らしいというかステキなんです。踊ってるなんて言ったら怒られてしまいそうですが。特に口を開けた増長天が気に入りました。

他にも、金泥を使った金文字の経典で描かれた宝塔は現代アートのようにも見えます。日本に仏教が伝わる中でストゥーパから変化した仏塔は、それ自体が仏舎利を納める神聖なものですが、それを経典の文字で描いているので、更に神聖性が高まっています。平安時代に描かれたものでありながら酸化せず色あせることのない金は、やはり普遍な世界を表すにふさわしいもので、人々が憧れるのもわかる気がしました。

昨年末から引き続きガザやウクライナ、イスラエルのニュースがあり、地震や飛行機事故の映像など心がざわついたまま過ごしてきたこの2024年の半月間でしたが、特別展「中尊寺金色堂」をゆっくり観せていただき、今がこの仏さま達と出会うよいタイミングだったのだと思いました。感じることの多い展覧会ですので、みなさまもぜひ訪れてみてください。

今回、間近で観ることができたので、その記憶が残っているうちにまた中尊寺を訪れて本物の金色堂の中で観てみたいと思います。

◆ 建立900年 特別展「中尊寺金色堂」

建立900年 特別展「中尊寺金色堂」
会期:2024年1月23日(火)~4月14日(日)
会場:東京国立博物館 本館特別5室
時間:9:30~17:00
※入館は閉館の30分前まで
※休館日などその他詳細は展覧会公式HPの開催概要をご確認ください。
URL:https://chusonji2024.jp/
※会期中一部作品の展示替えを行います。

(2024.01.22)

8KCGで再現された金色堂の中央壇
(8KCG:©NHK/東京国立博物館/文化財活用センター/中尊寺)
躍動感あふれる増長天像
(国宝 増長天立像 平安時代・12世紀 岩手・中尊寺金色院蔵)
袈裟には彩色が施されている地蔵菩薩立像
(国宝 地蔵菩薩立像 平安時代 12世紀 岩手・中尊寺金色院蔵)
金泥の経典で描かれた「金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅 第七幀」(部分)
(国宝 金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅 第七幀 12世紀 岩手 岩手・中尊寺大長寿院蔵)