2019年12月『イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路』

2019年12月 今月の世界遺産『イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路』

クリスマスにぴったりな世界遺産!?


 12月に入って街のあちこちがイルミネーションで彩られ、クリスマスの雰囲気が高まってきましたね。今回とりあげるのはクリスマスにぴったりな世界遺産です。 クリスマスにぴったりな世界遺産と聞いて、皆さんはどこを思い浮かべるでしょうか?人によって答えはさまざまだと思いますが、今回紹介するのは『イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路』です。クリスマスはイエス・キリストの誕生をお祝いする降誕祭の日ですから、まさにぴったりな世界遺産ではないでしょうか。
ベツレヘムの聖誕教会の前には毎年大きなクリスマスツリーが設置される ? Egisto Nino Ceccatelli
 ベツレヘムはエルサレムから南へ10kmほど行ったところにある小さな町です。マリアはこの町でイエスを生んだと『新約聖書』で伝えられています。イエスが生まれてから3世紀ほど経た339年に、イエスが生まれたとされる場所に建てられたのが「ベツレヘムの聖誕教会」です。現在建っている教会は6世紀に建て直されたものですが、床モザイクや外壁の基壇の一部は創建当時のものと考えられており、現存する世界最古級の教会です。この聖誕教会のほか鐘楼、庭園、巡礼路などが『イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路』として世界遺産に登録されています。
聖誕教会内のイエスが生まれたとされる場所の前で祈るを捧げる人 ? Egisto Nino Ceccatelli

ベツレヘム聖誕教会修復にたずさわる日本人女性


 華やかなイメージのあるこの世界遺産ですが、じつは登録されてからずっと危機遺産リストに記載されていました。漏水などによる破損で建物が崩落する可能性があり、2012年に世界遺産登録されると同時に、危機遺産にも登録されたのです。登録の際には、緊急で保護する必要があるという理由から、正規の手順をふまない「緊急的登録推薦」という方法が取られました。 それからずっと危機遺産のままでしたが、今年(2019年)動きがありました。世界遺産委員会でついに危機遺産の登録が解除されたのです。「ベツレヘムの聖誕教会」で2013年から進められてきた約150年ぶりの大規模な修復が評価されました。
修復作業が評価され今年(2019年)危機遺産リストから脱出 ? Egisto Nino Ceccatelli
 この150年ぶりの大修復には、ひとりの日本人女性が関わっています。神奈川県出身の佐々木愛子さんです。彼女は「ベツレヘムの聖誕教会」の修復を請け負うイタリアのピアチェンティ社のメンバーとして参加しています。イタリアで修復士になるという夢をもってフィレンツェ近郊の芸術学校で学んでいたところ、ピアチェンティ社から聖誕教会修復のオファーを受けました。「こうした文化財の修復に関わることはとても貴重な機会だと思い、二つ返事で仕事を受けました。1週間後にはベツレヘムに飛んでいました」と佐々木さんは言います。
聖誕教会の修復にたずさわる日本人 佐々木愛子さん ? Egisto Nino Ceccatelli
 佐々木さんが担当したのが、教会内の柱とその表面に描かれている聖人の絵の修復です。修復した柱は6 世紀のもので、聖人の絵は11 世紀の十字軍によるものです。 教会にある修復をされていない絵は、ミサで使われる香やロウソクの黒煙で黒ずんでいるので、はじめに洗浄する必要があります。生誕教会の柱に描かれた聖人の絵も、何が描いてあるかわからないほど黒ずんでいたそうです。 修復のなかで特に気をつかったのが、この「洗浄作業」だったと佐々木さんは言います。「年代的に大変古く貴重なものですので、取り返しのつかない過剰な洗浄をしないよう十分に気をつけました」。 洗浄した後は「補彩」という絵の欠けている部分をつなぐように色をつける作業が行われます。そして最後にワニスをかけて画面を保護して修復完了です。
修復前の柱の絵の様子 ⇒ 修復後の柱の絵の様子 ? Egisto Nino Ceccatelli
 今後、佐々木さんは聖誕教会の修復に関わった貴重な経験を糧に、修復士としてキャリアを積んでいきたいと言います。「実際に毎日何百もの人が訪れて巡礼している姿をこの目で見続けていたので、生誕教会がキリスト教の信仰の中心地の一つであり、とても重要なものなのだということを肌で感じることが出来ました。ヨーロッパなどのキリスト教国で修復の仕事を続ける上で『生誕教会で働いた』ということは大きな付加価値があるような気がします」
イタリア人スタッフとともに修復を進める佐々木愛子さん ? Egisto Nino Ceccatelli
 佐々木さんたちが行った修復の様子は、国士舘大学イラク古代文化研究所展示室の特別企画展「ベツレヘム聖誕教会 修復事業および発掘調査の軌跡」で詳しく紹介されています(2020年1月30日まで)。ぜひ興味のある方は足を運んでみて下さい。 そして、もっと興味がある人はベツレヘムの聖誕教会へ実際に行ってみるのもいいかもしれません。修復を終えて見ちがえるほど綺麗になった柱絵やモザイク画を見ることできます。「living heritage(生きている遺産)」である聖誕教会には、日々多くの人が祈りを捧げに訪れますので、綺麗な状態を見られるのは今だけかもしれませんよ。

(世界遺産検定事務局 大澤暁)

『イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路』に関する 検定の問題はコチラ

イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路(パレスチナ国) 登録基準:(iv) (vi) 登録年:2012年登録 登録区分:文化遺産

国士舘大学イラク古代文化研究所展示室 秋の特別企画展 「ベツレヘム聖誕教会 修復事業および発掘調査の軌跡」 2019年10月26日(土)~2020年1月30日(木)入場無料  https://www.kokushikan.ac.jp/research/ICSAI/news/details_13976.html 今月の遺産検定「イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路」 今月の遺産検定「イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路」

例題

Q1. パレスチナ国の『イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路』に関わりの深い宗教として、正しいものはどれでしょうか。 (3級レベル)
  1. ゾロアスター教
  2. キリスト教
  3. ヒンドゥー教
  4. 仏教
Q2. 『イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路』は何という方法で世界遺産に登録されたでしょうか。 (2級レベル)
  1. 主体的登録推薦
  2. 国際的登録推薦
  3. 合理的登録推薦
  4. 緊急的登録推薦
Q3. 今年(2019年)の世界遺産委員会で危機遺産から抜け出した遺産はどれでしょうか。 (1級レベル)
  1. ベリーズ・バリア・リーフ自然保護区
  2. トゥルカナ湖国立公園群
  3. イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路
  4. ウィーンの歴史地区