2020年1月『ブダペスト:ドナウ河岸とブダ城地区、アンドラーシ通り』

2020年1月『ブダペスト:ドナウ河岸とブダ城地区、アンドラーシ通り』

“ドナウの真珠”ブダペストとハンガリー美術


 あけましておめでとうございます。本年も「今月の世界遺産」をよろしくお願いします。2020年の初めに取り上げる世界遺産はハンガリーの『ブダペスト:ドナウ河岸とブダ城地区、アンドラーシ通り』です。
 ヨーロピアン・ベスト・デスティネーションズという団体が毎年、世界中の50万人以上の旅行者にアンケートを取り、旅をするのに最も良いヨーロッパ都市はどこかを決めています。最新の調査で一位に選ばれたのがハンガリーのブダペストでした。

ヨーロピアン・ベスト・デスティネーション2019で第一位に選ばれたブダペスト(写真は国会議事堂)
 ゴシック・リヴァイヴァル様式で建てられた国会議事堂やドナウ河にかかる「くさり橋」、立ち並ぶ建物のファサードが美しいアドラーシ通りやマーチャーシュ聖堂、ブダ城やリスト音楽院などなど、写真を見ているだけでため息がもれそうですね。「ドナウの真珠」と称えられるこうした美しい歴史的な街並みはもちろん、世界でも有数の治安の良さなどが評価されて、ヨーロピアン・ベスト・デスティネーションの第一位に選ばれました。

カラフルな屋根が特徴的なマーチャーシュ聖堂
 さて、そんなブダペストに行った気分に少しひたれる美術展が開かれています。東京・六本木の国立新美術館で開催中の「ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年」(2020年3月16日まで)。ハンガリー最大の美術館であるブダペスト国立西洋美術館とハンガリー・ナショナル・ギャラリーのコレクションを集めた展覧会です。両館の所蔵品がまとまった形で来日するのは、じつに25年ぶりのことです。
 この展覧会はタイトルの通り、ルネサンスから20世紀まで約400年間のヨーロッパとハンガリーの美術作品130点が出品されています。クラーナハ、ティツィアーノ、エル・グレコ、ルノワール、モネなどヨーロッパの巨匠たちの作品に加え、ハンガリーを代表する画家たちの名作も多く見ることができます。

ブダペスト国立西洋美術館
flexbox ルカス・クラーナハ(父)《不釣り合いなカップル 老人と若い女》1522年、油彩/板(ブナ)、ブダペスト国立西洋美術館 ©Museum of Fine Arts, Budapest-Hungarian National Gallery, 2019
flexbox ティツィアーノ《聖母子と聖パウロ》1540年頃、油彩/カンヴァス、ブダペスト国立西洋美術館 ©Museum of Fine Arts, Budapest-Hungarian National Gallery, 2019
 ハンガリー美術と聞いて皆さんはどんな画家や美術作品を思い浮かべるでしょうか? なかなか思いつかないという人も多いかもしれません。日本ではハンガリー美術が紹介される機会が多くありませんので無理はありません。しかし、ハンガリー美術には魅力的な作品がじつは沢山あります。「ハンガリー美術の特徴は、ヨーロッパの美術と調和を取りながら、その中で自分なりの独自のポジションを見つけるように努めてきたことです」とハンガリー・ナショナル・ギャラリー絵画部門長ゲルゲイ・マリアンさんは話します。ヨーロッパ美術でありながらどこか独特の味わいがある、そうした点がハンガリー美術の魅力のようです(以下の2作品はハンガリーを代表する画家の作品)。

ブダ城の中に入るハンガリー・ナショナル・ギャラリー
flexbox シニェイ・メルシェ・パール《紫のドレスの婦人》1874年、油彩/カンヴァス、ブダペスト、ハンガリー・ナショナル・ギャラリー ©Museum of Fine Arts, Budapest-Hungarian National Gallery, 2019
flexbox マルコー・カーロイ(父)《漁師たち》 1851年 油彩/カンヴァス、ブダペスト、ハンガリー・ナショナル・ギャラリー ©Museum of Fine Arts, Budapest-Hungarian National Gallery, 2019

激動の19世紀が生んだハンガリー美術の開花と首都・ブダペスト


 「ブダペスト展」を見て気づいたのが、ハンガリーを代表する画家の多くが19世紀以降にあらわれているということでした。なぜでしょうか? ゲルゲイ・マリアンさんは次のように解説します。「ハンガリーの画家は19世紀に入って、様式やテーマにおいて自分のスタイルを見つけました。19世紀にはハンガリーで独立戦争や革命があり、国民意識が芽生えた時代でした。ハンガリー的な美術がこの時代に開花した背景にはそうした時代性があります」。
 19世紀以前ハンガリーはオスマン帝国やハプスブルク家の支配を受けていました。しかし1848年の2月革命でオーストリアが混乱したのに乗じて、ハンガリーではコシュート・ラヨシュらによって自治政府を打ち立てられます(ハンガリー革命)。これはオーストリア軍によって鎮圧されますが、その後もハンガリーでは独立運動が続き、1867年オーストリアはハンガリーの自治権拡大を承認、ハンガリー王国を認めオーストリア=ハンガリー二重帝国となります。ハンガリー美術の開花にはこうした時代背景があるのです。

1948年のハンガリー革命の一場を描いた絵
 「ブダペスト」という都市が生まれ、現在見るような形になったのも、同じく激動の19世紀でした。ドナウ河に「くさり橋」がかけられたのが1849年のことです。この橋の完成によって、もともとブダとオーブダ、ペストと別々にわかれていた3つの街の合併の機運が高まり、1873年に1つの街に統合され「ブダペスト」が誕生しました。1872年には、エルジェーベト広場から英雄広場にのびるアンドラーシ通りが築かれ、計画的な都市開発が行われるようになりました。そして1880年には“自治国家の象徴”としてハンガリーの国会議事堂の建設がはじまります。このようにブダペストという都市の誕生も、ハンガリー美術の開花と時を同じくして19世紀に起こっていたのです。

1872年に敷設されたアドラーシ通り
 世界遺産を学んだり旅したりする時に、背景となる歴史やその国の文化・芸術について知っておくと、そこに関連性が見いだされて、何倍も興味深くなることがあります。「ブダペスト」はその好例といえるかもしれません。他の世界遺産についてもぜひ調べてみましょう。

(世界遺産検定事務局 大澤暁)

『ブダペスト:ドナウ河岸とブダ城地区、アンドラーシ通り』に関する
検定の問題はコチラ

ブダペスト:ドナウ河岸とブダ城地区、アンドラーシ通り(ハンガリー)
登録基準:(ii) (iv)
登録年:1987年登録
登録区分:文化遺産

日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念
ブダペスト国立西洋美術館 & ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵
「ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年」
開催中~2020年3月16日(月)国立新美術館 企画展示室1E
https://budapest.exhn.jp

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例題

Q1.『ブダペスト:ドナウ河岸とブダ城地区、アンドラーシ通り』はどこの国の世界遺産でしょうか?
    (3級レベル)
  1. ヨルダン
  2. ハンガリー
  3. ポーランド共和国
  4. フランス共和国
Q2. 『ブダペスト:ドナウ河岸とブダ城地区、アンドラーシ通り』に関し、10世紀末にハンガリー王国を建国した民族は何でしょうか?
    (2級レベル)
  1. フェニキア人
  2. ザクセン人
  3. クメール人
  4. マジャル人
Q3.『ブダペスト:ドナウ河岸とブダ城地区、アンドラーシ通り』に含まれる「ブダ城」を15世紀にルネサンス様式で改築した人物は?
    (1級レベル)
  1. マーチャーシュ1世
  2. アフォンソ1世
  3. エカチェリーナ2世
  4. シャルル2世

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回の更新予定:2020年2月17日(月)頃を予定してます。