認定級 世界遺産スペシャリスト・ プラチナ・シルバー
深串 泰光さん
旅行業
―― 世界遺産に興味を持ったきっかけは?
いままでに130ヵ国、180ヵ所の世界遺産を訪ねました。小さい頃から、親にあちこち連れて行ってもらった影響で、旅行が好きだったんです。海外にハマッたのは、大学生のとき、初めて行ったボルネオで家に泊めてもらったこと。行く先々で人の優しさに触れ、結局、就職もせずに3年間、95カ国でぶらぶらしていました(笑)
世界遺産検定を受けようと思ったのは、いま海外出張やツアーの企画の仕事をしている割に、テキストを見たら「これ、どこ?」って感じで、知らない場所がいっぱいあったからです。世界遺産に登録されるのは、評価基準に達しているということ。「ここは何がすばらしいんだろう」っていう知的好奇心を刺激され、勉強したくなったんです。
勉強は、通勤時にテキストや問題集を何度も見ていました。こうして去年6月にシルバー(現2級)、12月に中級2科目を取得。プラチナ(現1級)になりました。さらに、旅行業に従事し、総合旅行業務取扱管理者などの資格があって、世界遺産検定科目の対象エリアにある世界遺産の訪問経験といった要件も満たしていたので、世界遺産スペシャリスト*に認定されたのです。
*世界遺産スペシャリストの認定受付は2015年度末に終了しました。
―― 世界遺産を勉強していかがでしたか?
ユネスコが目指している「人々の心に平和の砦を築かなければならない」という世界遺産の理念。その砦を築くためは相互理解が必要で、文化の多様性を「知る」ことが大切なんだということは、それまで考えもしませんでした。
勉強してみて感じたのは、自然遺産については、地球温暖化や環境問題を考えさせる第一歩を踏み出すきっかけになるということ。僕は3年くらい前から、林野庁の森林インストラクターの資格を取って、高尾山などの公園で、一般人を対象に自然観察会を開いています。この活動での僕のモットーは、身近な自然から、世界の自然を楽しもうということ。例えば、ヤシの説明をするとき、メ渓谷という世界遺産に認定された自然保護区に世界一大きな実がなる(約20㎏)フタゴヤシがあるのですが、お土産屋さんで購入したその種を持って行って、食いつきのいいネタとして使っています。 その最終目標は、生物の多様性をわかってもらい、身近な自然を好きになってもらうこと。それが保全活動につながると考えています。だから自然遺産の価値や歴史を勉強すれば、方向性は一緒なんだなと感じました。
文化遺産についても、旅とは「知る」ということ。他の文化と違うから楽しいわけだし、一緒だったら、つまらないですよね。私たち旅行業も、こうした世界遺産の理念や活動に寄与しているんだな、と自負しています。旅行業界には実際、航空や保険の知識はあっても、世界遺産の意義や価値の話ができる人は、あまりいません。お客さんに「よくご存知ですね。どうしたんですか?」と聞かれるので、「実は、こういう資格を取っていまして」と答えると、驚かれます。団体旅行手配の部署にいたときに、ネタとしてずいぶん役立ちました。
勉強していると、プレゼンするときに、ガイドブックにプラスアルファの話ができる。とくに、「こういう似たような場所もあります」と比較すると、さらに関心を示されます。旅行先の案内では普通、そうした比較は、まず言えませんから。
旅行業界には、旅行地理検定やデスティネーション・スペシャリストなど、いろんな検定がありますが、世界遺産検定が他と明らかに違うのは、何のためにこういう事業をしているのかという理念があることです。
世界遺産の理念をどう受け取って、どう行動していくかは、個人の判断です。しかし、考える契機を与えてくれるという意味において、意義が大きいと思います。表面的な知識だけではない。そんな世界遺産の理念をわかった上で勉強すると、人間的にも深みが増すでしょうし、旅行業界に入ってからも違ってくると思いますね。