杉本 興運さん/東洋大学国際観光学部国際観光学科准教授

認定級 マイスター・世界遺産アカデミー認定講師

杉本 興運さん

東洋大学国際観光学部国際観光学科准教授

観光地における「人の流れ」の研究から 最適な観光の形を模索したい

―― 杉本さんのこれまでのキャリアについてお話ください。

 大学時代は首都大学東京(現・東京都立大学)の工学系の学部で都市計画を専攻していました。卒業後は大学院に進もうと考えていた頃に、観光庁が発足しました。国として観光に力を入れていくという機運が高まっており、「観光は伸びていく分野だ」と直感し、観光分野の道に進むことを決めました。もともと旅行は好きでしたし、観光をテーマにすればきっと楽しく研究ができるだろうという思いもありました。首都大学東京の観光学科に籍を置き、修士・博士と学位を取得したあと、6年間は助教として、観光・都市地理学や観光地マネジメント、地域観光政策など興味の向くままさまざまなプロジェクトに参加してきました。

―― 世界遺産検定を受けたきっかけは何ですか?

 助教になって2年目に「観光資源」に関わる授業を受け持ちました。言うまでもなく、世界遺産は重要な観光資源です。観光資源の観点から世界遺産について調べていくうちに「世界遺産検定」の存在を知りました。実はそのころ、学生の中にも世界遺産検定を受検する子がちらほらといて「世界遺産検定は面白い」という評判も耳にしていました。学生が受検するならば自分も受検してみようと挑戦したのですが、世界遺産は知れば知るほど面白い。気づけば1級、マイスターと合格し認定講師の資格を取るまでになりました。

―― 杉本さんを惹きつけた「世界遺産の面白さ」は何でしょうか?

 世界遺産から広がる知識の幅の広さです。世界遺産は世界中の識者から価値が認められた素晴らしい宝物で、1つ1つの遺産が異なった特徴を持っています。言い換えれば、その遺産の数だけ学べることがある。世界遺産を勉強することで、歴史や地理はもちろん建築や宗教、世界の民族についてなど幅広い知識が身に付くことでしょう。教科書だけから歴史や地理を学ぼうとすると、楽しく学べる人とそうでない人に別れるような気がするのですが、世界遺産を起点にした歴史・地理なら多くの人が興味を持ちやすく、意欲的に学べるのではと思います。
 また、自分の身近な場所や訪れた観光地が世界遺産だと知ることで、価値を再発見することもあります。良い例が、上野の国立西洋美術館です。東京に住んでいると身近過ぎてあまり意識することもありませんが、「この建物は世界遺産なんだ」という目で見ると、建物そのものへの見方も変わってくるのではないでしょうか。学習を通じて、さまざまなものに興味関心が広がっていくことが世界遺産の面白さですよね。



今後は、認定講師としても活動の場を増やし、人々に世界遺産のすばらしさを伝えていきたいと思います。

―― 現在は国際観光学科で教鞭をとられています。授業の中で、世界遺産の知識はどのように役立っていますか?

 私が受け持つ授業では、世界遺産の基礎知識や観光資源としての世界遺産について講義をする場面があります。また、国際観光学科は旅行業界への就職を希望する学生が大半です。旅行業界への就職に役立つ検定として学生に勧めているのが「旅行業務取扱管理者」と「世界遺産検定」です。受検を希望する学生に勉強方法をアドバイスする際は、自分が検定を受けた経験が役立っています。
 また、修士に在籍している学生は中国からの留学生がほとんどです。留学生とは互いの国の世界遺産の話で盛り上がることも多く、世界遺産がコミュニケーションツールなることも実感しています。

―― 今後、世界遺産に関連して研究したいテーマはありますか?

 私の研究テーマの1つに、「人流データを活用した観光動態の調査・分析」があります。かみ砕いて言うと、「観光地において人はどのような流れで移動するのか」ということを調査しています。「どの時間帯はどの場所が混むのか」「見どころを周遊するとき、人はどんな順番で巡るのか」を把握するための調査で得られたデータの分析結果は、観光地における都市計画や観光計画に活かすことができます。
 その研究の一環として、世界遺産と人の流れの関係性を研究するのは面白いかもしれません。例えば、ある場所が世界遺産に登録される前と後で人の流れがどのように変わるのか、世界遺産がたくさんある京都のような場所で人がどのように移動するのか……。世界遺産登録を目指している彦根城や、構成資産がさまざまな場所に点在する沖縄などを「世界遺産と人流」といったテーマで研究すると興味深いデータが取れそうです。
 観光は、人が集まることで消費が活発になるという「正の動き」が生まれる一方、オーバーツーリズムによる環境破壊などの「負の動き」も生まれてきます。データを基に人の流れを上手にコントロールすることができれば、観光客や観光地の人々にとって最適な形の観光につながっていくのではないかと考えています。これからの私の研究が、日本が目指す観光立国の一助となれば嬉しいですね。

(2022年2月)