■ 研究員ブログ162 ■ 年の終わりの国連 観光・文化京都会議2019


気がつけば、今年もあとわずかとなりました。年を経るごとに歳時を感じにくくなったというか、年末らしさを感じることなく年の瀬を迎えている気がします。メリハリがないのはよくないですね。

先日、久しぶりに冬の京都を訪れ、国際会議を傍聴してきました。会場の京都国際会館のある宝ヶ池の辺りは、なぜかいつも寒いんです。寒い時期に行くことが多いからだと思いますが、東京の寒さとは異なる、体の芯から冷えるような寒さが懐かしくもありました。今回傍聴した国際会議は、日本で初めて開催される「国連世界観光機関(UNWTO)/ユネスコ 観光と文化をテーマとした国際会議(国連 観光・文化京都会議2019)」です。

世界遺産は近年特に、ポジティヴにもネガティヴにも、観光と共に語られることが多くなってきました。UNWTOによると、2018年の世界各国の海外旅行者数は14億人に達しました。1995年の海外旅行者数は約5億2,500万人だったので、2018年までの10年ちょっとで約2.7倍にまで増加しましました。また、同じくUNWTOの2017年の統計によれば、観光客の受け入れを観光客を受け入れる国における輸出として考えると、全世界の観光による輸出額は1兆5,860億USDで、化学の1兆9,930億USDと石油の1兆9,600億USDに次いで第三位にあります。これは自動車の1兆4,700億USDや食料の1兆4,660億USDよりも多い金額なのです。世界的に観光の重要度が高いことがわかりますね。

当然、日本でも観光は有望な成長産業と考えられており、観光立国推進基本計画の中でインバウンド(訪日外国人客)の増加に力を入れています。当初は2020年にインバウンド2,000万人達成を目標としていましたが、2016年には目標をクリアし、2018年には3,100万人に達しました。2020年にはオリンピックがあるので、4,000万人に達すると期待されています。これも2015年の330万人から考えると、2020年は約12倍にも増える予想です。

観光人口の増加は、人口の減少と高齢化が指摘される中で、定住人口の観点からも注目されています。2017年の観光庁の試算によると、日本に定住している人の1人当たりの年間消費額は約125万円で、これは旅行者の1回あたりの消費額に換算すると、外国人観光客であれば8人分、宿泊する国内旅行者であれば25人分、日帰りの国内旅行者であれば81人分に相当するそうです。つまり、少子高齢化の流れの中で定住人口を増やすことが困難な地方都市などは、観光人口を増やすことで地域経済を維持することが可能だと考えられているのです。

こうした世界的に成長する観光産業において、重要な観光資源と考えられているのが世界遺産です。日本では、2017年3月に閣議決定された観光立国推進基本計画において、「観光資源の活用による地域の特性を生かした魅力ある観光地域の形成」が挙げられており、その中に、文化財の整備や美術館・博物館の充実などと並んで、「世界遺産の推薦及び保存・活用」があります。そこでは、文化財の保存・継承や理解促進と同時に、観光資源として重要であるため、国内の文化財の世界遺産登録を目指していくという方針が、国から示されています。

今回の「国連 観光・文化京都会議2019」は、世界遺産に特化したものではありませんでしたが、話の中で何度も世界遺産が登場しました。そこでやはり話題になったのが「観光の質の向上」です。これは、オーバーツーリズムに陥ることなく持続可能な観光を続けていくために必要なことです。

京都の門川大作市長に話を伺うと、京都市はかつて観光客の8割が日帰り観光でしたが、最近は宿泊客が増加して3割を超える人が宿泊しているそうです。2018年の宿泊者数は2017年から1.6%増えて1,582万人で、過去最高です。観光消費額も2018年に1兆3000億円に達しました。2013年が7,000億円だったので5年ちょっとで1.9倍も伸びています。

オーバーツーリズムなどの対策のために、京都市は50の対策に取り組み、特に「季節(時期)の集中」「時間の集中」「場所の集中」を解消しようとしていますが、そこで鍵となるのが宿泊客を増やすことでした。宿泊してゆったり観光することで時間や時期の集中を分散するだけでなく、京都の文化や自然にじっくりと触れてもらうことができます。世界遺産活動もそうですが、やはりしっかりとした理解がなければ、文化や自然の保護・保全というのは難しいでしょう。

国際会議のまとめとして「観光・文化京都宣言」が出され、そこに「観光、文化及び地域コミュニティの関係を適切にマネジメントすることに関する『京都モデル』の活用を推進する」と記載されました。京都は世界遺産でも景観保護の観点で日本国内をリードする対策を取ってきていますが、観光においても世界をリードするような生活・文化と観光、そして世界遺産が並び立つ都市になるとよいなと思います。

観光と世界遺産の問題は、都市によっても国によっても課題は異なると思いますが、様々な成功事例を共有しながら、世界各地・世界各国が協力していく2020年になるとよいですね。来年はいよいよオリンピック・イヤーです。どんな一年が待っているのでしょうか。

今年も一年間ありがとうございました。
よいお年をお迎えください。

(2019.12.26)