■ 研究員ブログ189 ■ 三保松原での「松葉かき」はなぜ必要なの?【ボランティア企画報告】

世界遺産を保護・保全していく上で重要なものは何でしょうか。お金は大事ですよね。文化財や自然環境の保護・保全には多くの費用がかかります。それに保護・保全管理計画。保護・保全を持続可能な形で続けていくためには、しっかりとした計画を立てる必要があります。そして法整備も欠くことはできません。世界遺産登録の最大のメリットは、推薦書を整えていく過程でこうした保護・保全体制が整えられていくことにあります。

しかし僕は、世界遺産を保護・保全していく上で最も重要なものは、人だと思っています。これは保護・保全のための人員計画ということではなく、一人ひとりが保護・保全意識を持つということです。どんな立派な計画や予算があったとしても、人々の保護意識が希薄であれば、本当の意味で文化財や自然を守っていくことはできません。

そのため世界遺産アカデミーでは、様々な講演会だけでなく世界遺産検定を主催して、世界遺産活動の意義や保護・保全の重要性を理解してくれる人を増やす手助けとなる活動を行ってきました。

今回、9月10日(土)に、静岡市の三保松原文化創造センターにご協力を頂き、世界遺産を学んだ方が実際に保護・保全活動に関わるボランティア企画を開催しました。世界遺産検定を三保松原特別会場で受検した方が講演会を聞いた後、実際に三保松原でボランティア活動「松葉かき」に参加する企画です。「学び」と「行動」という、世界遺産アカデミーが目指す活動が、ぎゅっと凝縮された一日でした。

最終的にボランティア活動に参加された方は69名。首都圏や北海道、山形県、長野県、愛知県、兵庫県、徳島県など静岡県外からの参加者は65.2%もあり、受検者の皆さまの保護・保全活動への関心の高さを感じました。

三保松原は世界遺産「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産ですが、世界遺産登録に際しては、ICOMOSから除外して登録するようにとの勧告が出された場所です。これは富士山山頂から45㎞ほども離れていて一体性があるとは言えないという理由でした。しかし、富士山が自然遺産ではなく文化遺産で登録を目指した以上、三保松原を切り離して考えることはできません。古くから絵画では富士山の手前には松林が描かれており、そこに松林がある場合は三保松原だと考えるというのが専門家による解釈です。それほどに、芸術の面では富士山と三保松原は一体のものでした。また日本文化において、一年中、緑の葉がついている松は不老長寿を象徴する神聖な木であり、信仰の山である富士山との関係も重要です。

そうした松林を守る上で必要なのが「松葉かき」です。

松は栄養分が少なく乾燥した砂浜でも生長することができるため、海岸沿いに松林が作られ、海からの風や高波、砂などから人々の生活を守ってきました。松は一年中、緑の葉を保っていますが、その一方で古くなった葉を毎日下に落とします。それを取り除かないと、本来なら栄養分の少ない砂浜の上で、落ち葉が栄養分となって様々な植物が生育するようになってしまいます。世界遺産「白神山地」などではブナの落ち葉が腐葉土となって多様性のある豊かな植生を生んでいるのですが、三保松原では多様性を持った雑木林になってしまうと松に十分な日光が当たらず、松が枯れてしまうのです。そうすると海風や塩分に弱い植物だけになってしまい、いずれ雑木林もなくなってしまう恐れがあります。松のようなたくさんの太陽光が必要な「陽樹」は、雑木林が苦手なのです。

昔はかまどや風呂釜の火おこしに松の落ち葉を集めて使っていたそうですが、最近では落ち葉が溜まる一方なため、毎日、三保松原文化創造センターのスタッフや地域住民、ボランティアなどが松葉をかき集める「松葉かき」を行っています。

今回は三保松原文化創造センター「みほしるべ」に、熊手とゴミ袋を用意していただき、全員で「松葉かき」を行いました。松の木の下は、松の落ち葉だらけですが、熊手で軽く集めるだけであっという間に大きなゴミ袋がいっぱいになります。どんどん落ち葉で一杯のゴミ袋が溜まっていくので、すごい達成感がありました。しかし、やってもやってもキリがないんです。これを続けていくのは本当に大変な作業だなと感じました。

残念ながら富士山は雲に隠れて見えませんでしたが、松林の奥に白い砂浜と青い海が見えて、気持ちよい風に吹かれながらのボランティア活動は、ぜひ皆さんにも体験していただきたいと思います。「みほしるべ」では、いつでも熊手とゴミ袋を用意して頂けますので、ぜひ世界遺産の三保松原の保護・保全活動に参加してみて下さい。また「みほしるべ」には、三保松原の地形的な歴史や「羽衣伝説」などの文化、富士山と三保松原の芸術など、様々な展示説明があります。学んで行動に移して、また学ぶ。こうして保護・保全活動の輪が大きく広がることを願っています。

(2022.09.13)

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