2023年もすでに1月が終わってしまいました。1月って日数が少ないんだったっけ? と毎年のように思ってしまうのはなぜなんでしょうね。年齢のせいでしょうか。
その1月の大きな出来事として、1月24日と25日の2日間、サウジアラビアのハイファ・アル・モグリン王女を議長とした第18回世界遺産委員会特別会合が開催され、議案通り第45回世界遺産委員会の会場と日程が決まりました。ここ数年、新型コロナウイルス感染症やロシアによるウクライナ侵攻などの影響で世界遺産委員会もイレギュラーな開催が続いており、なんだかうまくリズムに乗れなかったのですが、ようやくという感じです。
第45回世界遺産委員会は、サウジアラビアのリヤドで、9月10日(日)~25日(月)の日程で開催されます。また新規登録の審議については、2022年分と2023年分の両方を審議することも決まりました。日本から推薦されている遺産はありませんが、また知らない魅力的な遺産に出会えると思うと楽しみですね。
第18回世界遺産委員会特別会合では、緊急的登録推薦での世界遺産登録も審議されました。議案の段階で審議予定の3件の遺産には、どれも登録勧告が出ていたのですが、緊急的登録推薦で登録するのかどうかで意見が分かれる遺産もあり、議論は紛糾しました。
今回、緊急的登録推薦で世界遺産登録され、同時に危機遺産リストにも記載されたのは、ウクライナの「オデーサの歴史地区」とレバノンの「トリポリのラシード・カラーミー国際見本市会場」、イエメンの「マリブ:古代サバ王国の代表的遺跡群」の3件です。特別会合で世界遺産登録されたのは、第1回世界遺産委員会特別会合(1981年)で登録された「エルサレムの旧市街と城壁群」以来のことです。
この中で議論が紛糾したのが、「オデーサの歴史地区」です。オデーサは、ロシアの侵攻により破壊の危機に直面している都市です。新刊テキストの原稿に赤字を入れながらWebcastを流していただけなのでほとんど聞き取れていないのですが、ロシアが、NATOに対する非難なども含みながら何度も強く登録に反対する意見を述べ、ドイツなどのEU諸国も登録しないことが世界遺産やユネスコの理念に反すると反論するなど、アル・モグリン議長も進めにくそうな議論が続いていました。
最終的には投票が行われ、賛成6、反対1、棄権14で登録が決まりました。有効票の3分の2以上の賛成で登録だったので、今回は5票以上の賛成があり登録されたことになります。投票の挙手が行われる場面を見ていましたが、どこの国が賛成だったのかなどは小さすぎてわかりませんでした。反対票はロシアなのでしょうけど。
ロシアが酷い方法でウクライナに侵攻し、文化財だけでなく、人々の生活や文化、歴史まで破壊しようとしていることは強く非難されるべきことです。その意味で、今回の「オデーサの歴史地区」の世界遺産登録は、文化財や歴史・文化の保護の観点から意味があることだったと思います。一方で、今回の登録が純粋に文化財の保護のためだけだったのかというと、そうとも言い切れないと思います。パレスチナの世界遺産が緊急的登録推薦で登録された時に、政治的な登録だと批判があったのと同じです。紛争・戦争時の文化財の保護と政治問題は分けて考えることが非常に難しく、それが現在進行形の場合はなおさらです。世界遺産に登録して守っていくというのはもちろんよいと思いますが、扱い方に気を付けないと、ユネスコの中立性や世界遺産活動への信頼を損なう可能性もあるのです。
今回の特別会合では、第42回世界遺産委員会で議題に上がり、第44回の委員会でワーキンググループが立ち上がった「近年の紛争(リーセント・コンフリクツ)」に関する遺産について、オープンエンドでの話し合いをしていくことも確認されました。そこでは、世界遺産が顕著な普遍的価値のあるものだけを登録するものである(危機に直面した文化財なら何でもよいわけではない)ことや、世界遺産登録がユネスコの平和促進に寄与するものであり、そのために関係国間での話し合いと合意が重要であること、「近年の紛争」に関する遺産の評価を一時停止すること、登録に向けた推薦については個々の状況に応じて判断することなどが決まっています。
世界遺産も有名になったが故に、難しい問題も扱わざるを得なくなってきたなと感じます。9月の世界遺産委員会もぜひ注目してみて下さい。9月なんてきっとすぐに来るんだろうな。
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(2023.02.01)
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