■ 研究員ブログ172 ■ 登録勧告!「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」

3日前に「5月中には勧告が出るかも」と研究員ブログで書いたばかりだったのですが、今日、IUCN(国際自然保護連合)から「登録」勧告が出ました! もちろんこれは4段階の勧告の中で一番良い、世界遺産にふさわしいと評価する勧告です。嬉しいですね! 日本では5件目、2011年の「小笠原諸島」の登録からちょうど10年ぶりの自然遺産です。

勧告の細かな内容はまだわからないので、推薦書からこの遺産の価値を見ていきたいと思います。

「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」は、日本列島の九州南端から台湾までの海域の約1,200kmに点在する琉球列島のうち、中琉球の奄美大島と徳之島、沖縄島、南琉球の西表島からなります。徳之島だけ2つのエリアに分かれているため、4つの島の5つのエリアで構成されています。

その5つのエリアは、黒潮と亜熱帯性高気圧の影響を受ける、温暖で多湿な亜熱帯性気候で、主に常緑広葉樹多雨林に覆われています。そこに生息するヤンバルクイナやアマミノクロウサギ、イリオモテヤマネコなど、固有種が独自の進化をとげ、世界有数の生物多様性を示している点が評価されました。かつて大陸と陸続きだったこの地に取り残された種が、大陸でオリジナルの種が絶滅した後も独自の進化を続けたのです。

今回は推薦した登録基準は(x)「絶滅危惧種を含む生物多様性」の価値です。日本では「知床」のみで認められています。また登録されれば、日本の自然遺産では唯一、登録基準(ix)が認められない遺産になります。登録基準(ix)については、2018年に推薦書を取り下げた時は入れていたものの、IUCNからその価値は認められないと否定されたため、今回の推薦では外していました。

◆ 前回の推薦とは何が違う?

「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」は、2018年の世界遺産登録を目指していましたが、IUCNから「登録延期」勧告が出されたため、推薦書を取り下げていました。前回の推薦時と今回の推薦ではどこが違うのでしょうか。

先ほども書いたように、まず登録基準が登録基準(ix)(x)の2つから、登録基準(x)のみに少なくなりました。

次に大きな点が、推薦地域が4島24エリアから4島5エリアに大きく絞られた点です。「絞られた」と書きましたが、エリアの数を絞っただけで、登録範囲は379.46平方kmから426.98平方kmに拡大しています。これは、前回のIUCNの勧告で、推薦エリアが分断されており完全性や連続性の点で問題があると指摘されたため、バッファー・ゾーンをプロパティに組み込んだり、推薦エリアの境界を調整した他、結びつけることが難しい小さなエリアを除外したことで、完全性や連続性のある推薦エリアにまとめたためです。

また、沖縄島北部で米軍の北部演習場の返還地の一部を加えたり、推薦エリアの私有地の買取を行うなど、生物多様性を保護する上で必要な広さを含む完全性が整えられました。

他にも侵略的外来種の管理やモニタリングを行う管理計画や、観光開発や訪問者をコントロールする管理計画などが整えられました。今回のIUCNの勧告ではその辺りも評価されたのだと考えられます。

◆ 世界遺産委員会とその後

世界遺産委員会では、おそらく「登録」決議が出されると思います。

世界遺産登録後は、大型フェリーの寄港計画をどうするのかや、外来種対策の徹底などを考えていく必要があります。世界遺産登録の経済効果を大きくすることを地元経済界や本州の開発業者などは考えるでしょうが、最優先は、世界遺産の価値である、絶滅危惧種を含む生態系の保護です。いまだにプロパティがむき出しの場所もありますので、世界遺産登録をゴールではなく、スタートとして考えられるように、登録前の今から考えていけるとよいですね。7月の世界遺産委員会が楽しみです。

(2021.05.10)