認定級 1級
戸川 武さん
NHK 報道局 テヘラン支局長
―― 戸川さんはこれまでどんなキャリアを積まれてきたのでしょうか?
―― 仕事の中で世界遺産を学んだことで得られた知識が役立ったことはありますか?
いくつもあります。たとえば、去年4月、パリの「ノートル・ダム大聖堂」で火災が起きたあと、すぐにICOMOSに連絡をとって再建方法などについてトップの会長にインタビューをお願いしました。ICOMOSは保全の専門家集団ですし、本部がパリという知識が事前にあったおかげで、すばやく対応できました。
また、ニュースバリューの判断にも役立っています。沖縄北部に生息する「リュウキュウヤマガメ」を香港に密輸したとして日本人が去年有罪判決を受けました。この事件をめぐって、日本国内のある取材先から電話を受け「日本にとって看過できない事件だ」と言われた時に、「そうだ、今沖縄本島北部は世界遺産登録を目指しているから密輸対策を強化しないといけないのだ」とすぐに理解できました。あとは、仕事柄、外国人と日常的に話をするのですが、日本各地の世界遺産の魅力を説明できるようになったこともメリットだと感じています。
―― 戸川さんは現在NHKのテヘラン支局長を務められています。イランでは毎日の仕事をどのように行われていますか?
率直に言って、あまり気が休まらない情勢が続いています。私の仕事は、イランで起きている出来事を情報や映像という形で日本に届けることです。1月にイランがアメリカ軍拠点をミサイルで攻撃した際もそうですが、深夜でも早朝でも関係なく重要なニュースが入ってきます。早く、それでいて、正確に原稿を書くというのは、この仕事を何年もやっていても簡単なことではありません。その一方で、イランの動向は、国際情勢に大きな影響を与える重要なテーマです。これにチャレンジできるのは国際ジャーナリスト冥利に尽きるとも思っています。
―― 今後、仕事の中で世界遺産の知識を活かしていきたいことはありますか?
―― 最後に世界遺産を学ぶ学生にメッセージをお願いします。
世界遺産はいわば、各国にとってはお国自慢の宝物です。そのため、世界に友達を作るための話題には良いツールだと思います。ビジネスでも、プライベートでも大いに役立つのではないでしょうか。
何を隠そう、私自身、中学校や高校の時に歴史の勉強が大嫌いでした。でも、世界遺産は、ありがたいことに、私たちが生きているこの時代に自分の目の前に実在しています。すでに存在しない歴史上のものであれば、学ぶ意欲も起きなかったと思います。目の前にあることで、当然、感動もあります。その感動をより大きな感動にしてくれるのが、知識だと思います。
かつて、中国の洛陽のそばにある「龍門石窟」を見に行ったことがあります。川沿い1キロにわたって、無数の仏像が岩場に彫られている姿は圧巻です。見ているだけで感動します。でも、それが400年以上かけて掘られたという事実を知ると、その光景がもっと味わい深いものに変わるのではないでしょうか。「現在」を満喫しつつ、「過去」に思いをはせながら学べば、その楽しみも増すと思います。
(2020年03月)