■ 研究員ブログ234 ■ 第48回世界遺産委員会⑦:多国間主義は大事にしないと

今日は新規登録に関する審議が中心です。大臣クラスが来るからか警備も厳重になっており、メディア席もいっぱいになっていました。

まずは、昨日決議された『バイカル湖』の続きからです。『バイカル湖』の危機遺産リスト入りが見送られたことにロシアが感謝のコメントをしたことに対し、ウクライナが「決議内容を支持しない(disassociate)」とし、危機遺産リストに記載して保護するべきだと改めて主張しました。これは昨日のチェコが『セバスティア』の審議でとった立場と同じです。それにしても、合意に至らなかっとはいえ採決で決議されたことに対し、改めて反対意見を主張するのことは、やらなくてもよかったのではと思います。公式文書に発言を残すという意味でしょうが、あまり印象はよくない気がします。外交の素人の意見ですが。

続いて、登録基準の変更を申請していたコンゴ民主共和国の『ガランバ国立公園』の審議で、決議文の修正もコメントもなく、登録基準(ix)(x)で決議されました。

ここから新規登録に関する審議に戻り、ヨルダン・ハシェミット王国の『アカバ海洋保護区』からです。登録基準(ix)(x)で推薦され、そのまま登録が勧告されていました。修正もコメントもなく、登録基準(ix)(x)で登録が決議されました。

次はサウジアラビア王国の「アカバ湾:サウジアラビア王国の紅海にあるアカバ湾のサンゴ礁群」です。この遺産は登録基準(vii)(viii)(ix)(x)で推薦されていましたが、OUVの証明が全体的に不十分で完全性にも課題があるということで情報照会が勧告されていました。レバノンが、すぐに登録しないで来年により内容のよい推薦書で審議した方がよいとコメントし、そのまま情報照会が決議されました。

次はUAEの『ワディ・ウラヤ』です。この遺産は登録基準(ix)(x)で推薦されていましたが、登録基準はどちらも証明が不十分で、完全性にも問題があるとして登録延期が勧告されていました。この遺産の議論は少し過熱します。登録基準(ix)で登録すべきとするバングラディシュと、「登録延期」勧告は世界遺産の制度の中で重要であり保護の体制をしっかり整えてから登録すべきとするスイスやチェコの間で議論が平行線となりました。

バングラディシュは推薦書の内容で登録基準(ix)は十分に認められており、バングラデシュの提案した修正案に賛同する国がバングラデシュを含めて18カ国あるので、すでに委員会の合意が得られていると主張します。世界遺産委員会の決議は、基本的には合意に基づいて行われるため、バングラデシュは早く決議に進むように言っているのです。

しかしチェコが、IUCNの「登録延期」勧告を完全に否定して「登録」決議にいくのに十分な議論がなされているとは言えないとしてバングラデシュに反対し、少数の意見を聞かないことは合意ではないと反発します。

それを受けてイ議長も、少数の意見にしっかりと耳を傾けることがUNESCOの掲げる多国間主義(マルチラテラリスム)であると発言します。今回のイ議長は、これまでの審議でもそうですが、すべての意見がしっかり出きるまで発言を求めて議論を促しており、その点はとてもよいと思います。しかし、多数派だから審議を次に進めるべきだという国も少なからずあり、イ議長と委員国の間でぎくしゃくしているようにも感じます。

その後、譲歩したスイスが提案した追加の修正文言も、18の国が元の修正案に賛同しているのだから必要ないとするバングラディシュの主張に従って削除され、結局、登録基準(ix)で登録が決議されました。UAE初の自然遺産です。

続いて韓国の『ゲボル:韓国の干潟(第二段階)』です。ここで韓国の遺産なので、イ議長は自国の遺産に関する議事進行を行えないため、副議長国のセネガルの大使が議長を代行します。この遺産は2021年に登録された『ゲボル:韓国の干潟』をシリアル・サイトとして段階的に拡大していくもので、修正案もコメントもなく、登録基準(x)で範囲拡大が決議されました。今回の本会議場の前の大きなスクリーンではずっとゲボルの映像が流れているのですが、本当に美しい干潟のようです。

続いて、中華人民共和国の『景徳鎮の手工芸磁器産業遺産群』です。この遺産はICOMOSからほぼ満点の評価で登録が勧告されており、そのまま修正もコメントもなく、登録基準(ii)(iii)(iv)(vi)で登録が決議されました。評価書の写真を見ていると、かなり行きたくなる遺産です。

次は、アメリカ合衆国の『オキフェノーキ国立野生生物保護区』です。この遺産もIUCNから登録が勧告されており、そのまま登録基準(ix)(x)で登録が決議されました。ここで驚いたのが、今回アメリカは代表団を送ってきていなかったということです。昨日、アメリカの存在感がないと思い、席がどの辺りなのか探して見つからなかったのですが、まさか代表団が来ていないとは思いませんでした。自分の国の遺産が審議されるというのに! もう、何というか・・・ねえ。

次はコモロ連合の『コモロのスルタン国時代の旧市街群』です。登録基準(ii)(iii)(iv)で推薦されていましたが、(iii)(iv)は認められないということで、(ii)のみで登録が勧告されていました。ここも修正もコメントもなく、登録基準(ii)で登録が決議されました。コモロ初の世界遺産です。登録後はめちゃくちゃ盛り上がっていました。こういうのいいですよね。

次はカザフスタン共和国の『マンギスタウの岩窟モスク群と関連する聖地群』です。登録基準(ii)(iii)(vi)で推薦されていましたが、構成資産を1つ外して(iii)のみで登録が勧告されていました。しかし、アゼルバイジャンから構成資産を元の5資産に戻し、登録基準(ii)も認める修正案が出され、議論の結果、構成資産は推薦通りの5資産で、登録基準(ii)(iii)にて登録が決議されました。この遺産、とても興味があります。

次はモンゴル国の『匈奴の貴族の墓地遺跡群』です。登録基準(ii)(iii)(iv)で推薦されていましたが、(iii)のみで登録が勧告されていました。これは修正もコメントもなく、登録基準(iii)で登録が決議されました。

次はタイ王国の『ナコーンシータンマラートにあるワット・プラ・マハタート・ウォラマハーウィハーン』です。登録基準(ii)(vi)で推薦され、そのまま登録が勧告されていました。そのまま修正もコメントもなく、登録基準(ii)(vi)で登録が決議されました。評価書の写真を見ていると、立体曼陀羅のような仏塔や金の仏像など、とても美しい遺産のようです。

次はデンマーク王国の『リムフィヨルド西部の硬骨魚類の化石群―始新世前期における進化と気候への適応』です。2つのエリアからシリアルサイトですが、登録基準(viii)で推薦され、そのまま登録が勧告されていました。これも修正もコメントもなく、登録基準(viii)で登録が決議されました。

次はロシア連邦の「トラタウ、クシュタウ及びユラクタウのバシキール・シハン群」です。登録基準(viii)で推薦されていましたが、バッファー・ゾーンの再設定や、先住民族と協力して管理体制を強化することなどが求められ、情報照会が勧告されていました。これも修正もコメントもなく、そのまま情報照会が決議されました。登録後にロシアが追加資料を準備するとコメントしたのに対し、ウクライナが「ロシアの遺産はどれも保全上の問題があり、情報照会の決議で出された課題に全て対応してから推薦書を出すように」と強くコメントしました。来年の審議対象になったとしてもどうなるかわからない感じがしました。

次はチュニジア共和国の『シディ・ブ・サイドの村:地中海における文化的・精神的インスピレーションの源泉』です。登録基準(ii)(iv)(vi)で推薦されていましたが、(iii)のみで登録が勧告され、いくつかの改善提案もつけられていました。推薦書と異なる登録基準というのも変な話です。これも決議文に修正もコメントもなく、登録基準(iii)で登録が決議されました。この遺産は、白い建物と青い扉や窓飾りのコントラストがとても美しい遺産のようです。今日の審議された遺産の中で、一番行ってみたくなりました。

次はインドの『ヴァーラーナシーにあるサールナートの古代仏教遺跡』です。登録基準(ii)(iii)(iv)(vi)で推薦されていましたが、(iii)(vi)のみで登録が勧告されていました。これも修正もコメントもなく、登録基準(iii)(vi)のみで登録が決議されました。

最後に時間調整で、先の審議予定の内容を手短に済ませ、今日の日程が終わりました。

いよいよ明日は、日本の「飛鳥・藤原の宮都」の審議が行われます。登録はほぼ間違いないので、安心して楽しみに待ちましょう!

(2026.07.25)