■ 研究員ブログ236 ■ 第48回世界遺産委員会⑨:信頼性にも関わる審議が続いた日


今年の世界遺産委員会もいよいよ終わりが見えてきました。今日で新規登録の遺産の審議が終わります。そして今日もめちゃくちゃ良い天気です

今日は大きな話題が2つありました。

1つ目は、スペイン王国の「リベイラ・サクラの水景」の審議です。この遺産は登録基準(v)で、文化的景観の価値をもつ遺産として推薦されていました。しかし、ICOMOSからは不登録が勧告されていました。

不登録が勧告された遺産は、そのまま本会議で不登録が決議されると、基本的には同じOUVでの推薦はできなくなるので、推薦書を取り下げることが多いです。今回も不登録が勧告されたトルコの「ゼルゼヴァン城とミトラ神殿」は推薦書を取り下げていました。しかし、「リベイラ・サクラの水景」は推薦書を取り下げませんでした。実は、この遺産は2020年にも推薦され、その時も同じように不登録勧告が出され推薦書を取り下げていました。

ICOMOSは改善された推薦書に一定の評価はしますが、1,500年以上続く文化的景観に20世紀の水力発電所やダムを含めるのは無理があるし、ヨーロッパの農村の河川景観としては顕著であるとは言えないとして、OUVが認められないという判断でした。

それに対しまずペルーが、登録基準(v)で登録するという修正案を出し、タンザニアとウクライナが共同提案者として名前を連ねます。それに対し、チェコやスイスなどはOUVが認められないとするICOMOSの勧告を重視し不登録を、グレナダやアルメニアなどは情報照会を、ポーランドやレバノンなどは登録延期を主張し、議論を繰り返しても平行線でまとまりません。

途中で委員国の大使たちが集まり何やら話し合いを行い、いったん議論を打ち切って昼の休み時間に意見のすり合わせを行って、午後の最初の議題として審議を再開することになりました。

しかし、昼休みの話し合いでも合意に至ることができず、ペルーが登録の代わりに、棚田の農業システムや集落、修道院などの有形の文化要素や無形の文化要素が文化的景観として一貫性のあるものだと示すことなどの、新たな情報照会の修正案を提案しました。それに対しても、チェコなどが諮問機関の評価を重視して勧告を支持するなど互いに譲らず議論が長引きましたが、最終的には新たな情報照会の案に多くの委員国の支持が集まり、そのまま情報照会で決議されました。また、推薦書の改訂に先立ち、アドヴァイザリー・ミッションを受けることも求められました。

2つ目は、危機遺産リストに記載されているオーストリアの『ウィーンの歴史地区』の保全状況報告に関する審議です。

『ウィーンの歴史地区』は、世界遺産登録エリア内での都市景観を損なう開発計画が問題となり、2017年より危機遺産リストに記載されていました。今回ICOMOSは、国内法などの改善は見られるものの、危機遺産リストから脱するための望ましい保全状況(DSOCR)に達していないことや、別の新たな開発計画があることなどから、引き続き危機遺産リストに記載して継続的に報告を審議していくことを勧告していました。

それに対しウクライナは、建設計画の高さの調整などDSOCRに向けて著しい進展が見られることなどから、危機遺産リストから削除する修正案を出します。実際にDSOCRを達成する前に危機遺産リストから削除することの制度的な問題なども含め激しい議論となりましたが、すでに3回のHIA(遺産影響評価)が行われていることなども考慮され、危機遺産リストからの削除が決議されました。

しかし決議文の採択でも、通常のようにパラグラフごとに検討するのではなく一括で採択するなど、かなり強引な所も見られたため、一部の委員国や諮問機関との間にはかなり溝ができたように感じました。スイスとグレナダは採択後に「決議内容を支持しない(disassociate)」とコメントし、記録に残されました。またアソモ世界遺産センター長は「世界遺産センターや諮問機関の勧告に反して危機遺産リストから削除する決議になったのは初めてのことだ」とし、「決議内容には実行が困難、もしくは不可能ともいえるものが含まれているが、実行に向けて努力をしていく」と発言し、禍根を残したように思います。今回の世界遺産委員会は、外から見ていると、一部の国がかなり強硬に譲らないことが度々あるように見えて、合意形成で進める世界遺産委員会としてどうなのかなと感じます。イ議長も大変そうです。

それ以外の議題は以下の通りです。

ポーランド共和国の『グディニャ:モダニスト都市の中心部』は、登録基準(ii)(iv)で推薦されていましたが、ICOMOSからは登録基準(iv)のみで情報照会が勧告されていました。そこにカザフスタンなどから登録するとの修正案が出され、議論の末に登録基準(iv)で登録が決議されました。

ブラジル連邦共和国の『アマゾニアの劇場群』は、2つの構成資産で登録基準(ii)(iv)で推薦されていましたが、ICOMOSからは構成資産を1つに減らし、登録基準(iv)のみで登録が勧告されていました。そこにレバノンなどから推薦時の2つの構成資産で登録基準も(ii)(iv)の両方で登録するとの修正案が出され、議論の末に構成資産2つ、登録基準(ii)(iv)で登録が決議されました。この劇場は、ゴムの交易などで栄えたブラジルの繫栄を伝える本当に美しい建物です。美しい劇場としてはイタリアのものと並んで今回2件目です。

保全状況報告の続きでは、ザンビアとジンバブエの『ヴィクトリアの滝(モシ・オ・トゥニャ)』が審議されました。ケニアの修正案に基づき審議され、最新の保全状況報告書を2028年の第50回世界遺産委員会で審議することで決議されました。

軽微な変更に関するものでは、ケニアの『ケニア山国立公園と自然林』に関して、変更範囲が広いことなどからIUCNが軽微な変更ではなく範囲拡大で申請するよう勧告していましたが、タンザニアから軽微な変更を認める修正案が出され、議論の末に一帯の利害関係者との対話を行い保護を進めるなどの文言を追加して、承認が決議されました。

同じく軽微な変更で、イタリアの『ボローニャのポルティコ群』は
差し戻しの決議となり、これまでバッファー・ゾーンの設定がなかったイタリアの『ヴェネツィアとその潟』とスイスの『ベルンの旧市街』は、ヴェネツィアが不承認、ベルンが差し戻しの決議となりました。

今日で新規登録に関する審議は終わり、25件の世界遺産が新しく誕生しました。内訳は、文化遺産19件、自然遺産5件、複合遺産1件です。ここには文化的景観が2件、記憶の場が1件含まれています。そして、世界遺産の総数は1,273件になりました。

また新しく南スーダン共和国とコモロ連合、サントメ・プリンシペ民主共和国の3カ国が遺産保有国となり、世界遺産を1つも保有しない国は23カ国となりました。グローバル・ストラテジーに従って、確実に遺産保有国が増えてきていると言えます。危機遺産リスト記載の遺産は、6件追加、1件削除で、合計58件になりました。

大きな議題がだいたい終わったこともあり、会場の参加者数もメディアの数もかなり減ってきました。会場が広いだけにちょっと寂しい感じです。

PCのトラブルがあって、アップが遅くなりすみません。

(2026.07.27)