■ 研究員ブログ233 ■ 第48回世界遺産委員会⑥:波立つ議論

今日からはいよいよ新規登録の審議が始まります。今年は、イベント会場のようなホールの広いワンフロアに椅子を並べて世界遺産委員会が行われているためか、昨年に比べて新規登録の高揚感のような感じはなく、全体的にがやがやと散漫な雰囲気です。

今日も最初は、既に世界遺産登録されている遺産の保全状況報告の続きからです。

まずはアルバニアと北マケドニアの『オフリド地方の自然及び文化遺産』です。この遺産には、2019年の第43回、2021年の第44回、2025年の第47回と3回にわたり、開発や水質の変化などにより危機遺産リスト記載の勧告が出されていましたが、その度に見送られていました。昨年の第47回では1年の猶予を与える決議でしたが、1年後の今年も危機遺産リスト記載の勧告が出されました。

審議ではまずトルコが、両国の保全計画の実施状況を見守るために危機遺産リストには記載せず、3年間の猶予を与え2029年2月1日までに改善された報告書を提出するように修正案を出します。それに対し、スイスは危機遺産リストに記載して、長期的な視点でモニタリングしていくことを提案します。「危機遺産リストに記載することは制裁ではない」と言っていたのも、「正論」ではあります。

10年以上の時間をかけても改善されていない上に、猶予を与える期間が長すぎるという意見もありましたが、僕の印象ではトルコの少々強引な議論の進め方もあり、譲歩したスイスが提案した来年の第49回で危機遺産リスト入りを含めて審議するという文言も削除され、決議文からは検討も含め「危機遺産リスト記載」という文言は消えました。最終的には2029年のリアクティヴ・モニタリング・ミッションを経て、最新の報告書を2031年2月1日までに提出し、2031年の第53回で審議されることになりました。トルコを支持した国が多かったこともありますが、ずいぶんアルバニアと北マケドニアに寄り添った結論だった気がします。

その後は、審議なしで保全状況報告が決議される遺産が続き、メキシコが『カンペチェ州カラクムルの古代マヤ都市と保護熱帯雨林群』に関する決議文にリアクティヴ・モニタリングの結果が反映されていないと苦情を言ったり、ポーランドとベラルーシが『ビャウォヴィエジャ森林保護区』に関して互いを非難するコメントをするなどもありました。ベラルーシはEUと対立しており、不法移民の問題もあるので、そうした状況になるとトランスバウンダリー・サイトの保護は難しいと思います。

午後は急に予定が変更になり、スケジュール通り新規登録に関する審議が始まりました。お昼休みの間に何らかの話し合いが持たれたのだと思います。

暫定リストの承認のところでは、締約国のうち6カ国がまだ暫定リストを作成していないことや、新しく提出された暫定リストの説明などがありました。そこでもイスラエルが、パレスチナの暫定リストについて、ユダヤの歴史を無視していると反発しました。その時に、「パレスチナのUNESCO加盟に法的な根拠はなく、パレスチナが提出した世界遺産に関する書類をイスラエルは承認しない」と言い切っていて驚きました。

新規登録の審議は、緊急的登録推薦の遺産から始まりました。まず最初はレバノンの『アメル山の城塞群』です。この遺産は2026年7月8日に世界遺産センターから全締約国に推薦書の提出が告知されたばかりの遺産です。イスラエルによる軍事的な占領によって危機に直面しているという理由で、登録基準(ii)と(iv)で世界遺産リストに記載され、危機遺産リストにも同時に記載されました。

記載の決議後には、イスラエルがヒズボラの軍事拠点であり遺産に被害を与えないようにしているとコメントし、レバノンがそれは違っていると否定する、既視感のある光景でした。

続いて、パレスチナの『セバスティア』が審議されました。この遺産は、パレスチナとイスラエルが管理するエリアと、イスラエルが管理するエリアが含まれるだけでなく、2026年2月に設立されたショムロン国立公園が遺産を分断し、イスラエルの入植を加速するために、遺産の保護が困難となっていることが緊急的登録推薦の理由です。

ここではチェコが、この地域が危機的な状況にあることは理解するけれど、OUVが十分に立証されていないことに加え、ユダヤの文化的価値も十分に反映されていないとして反対します。そして合意は難しいとして、議論を中止して投票に移ることを要請します。ここで投票に移るかどうかでまた激しい議論になり、最終的にはチェコが「決議は尊重するが、内容は支持しない」として、世界遺産リスト記載と危機遺産リスト記載が決議されました。登録基準は(iii)です。この議論では、チェコの議論の進め方が少々不可解に感じました。決議後のパレスチナとイスラエルのコメントは、だいたい皆さんの想像通りです。

新規登録に関する遺産は、この2つで終わり、また保全状況報告に戻ります。何なのでしょうね。

ロシアの『バイカル湖』の危機遺産リスト記載勧告に対して、2026年8月に行われるリアクティヴ・モニタリング・ミッションの結果を待つために、第49回まで1年間の猶予とするというカザフスタンの修正案が出されました。それにウクライナなどが反対し、合意が得られないということで挙手による採決となりました。ここでもまあ揉めたのですが、結果的に賛成14、反対5、欠席1、棄権1で採択され、『バイカル湖』は第49回で審議されることになりました。

ここまで読んでいただいた方は、本当にありがとうございます。長いですよね。僕も読み返したくないくらいです。実際の議論自体も長くて、その疲れを少しでも味わってもらえるとよいです・・・なんて後付けですが。

前回のネノフ議長と今回のイ議長のタイプの違いも影響しているように感じるのですが、委員国も独自色の強い方が多く、今回の世界遺産委員会はちょっと波が荒い感じがします。現在の世界の状況を反映しているとも言えるかもしれません。

(2026.07.24)