■ 研究員ブログ232 ■ 第48回世界遺産委員会⑤:危機遺産がまた2つ増えました

明日からの新規登録の審議に向けてなのか、一気に会場の人数が増えてきました。開催地が日本から近いため、日本の自治体などからの参加者も多くいらっしゃいます。

今日は異例のスタートでした。昨日に危機遺産リスト入りした『フェニキア都市ティルス』について、イスラエルが発言を求め、議題に入る前にイスラエルの発言から始まりました。

イスラエルの国防軍が攻撃をしたのは、ティルスの遺産の近くにあるヒズボラの軍事施設であって、遺産に被害があったとしても意図しない偶発的なものである。そしてイスラエルは、遺産への被害を最小限に抑えることを目的に行動をしていると主張します。

それに対しレバノンは、「イスラエル代表がお持ちの情報は必ずしも正しくないようだ」と、すぐに反論します。イスラエルがドローンやAIを用いて攻撃した場所は、遺産の近くではなく遺産の内部であり、ローマ時代の円柱などが被害を受けたことを実際に見てきているし、UNESCOにも報告されていると答えます。レバノンの大使は、世界遺産に関わって25年以上になるベテランの男性で、世界遺産委員会では知られた存在です。

イスラエルとレバノンの発言は、議長としては一応コメントさせておくという感じだったようです。特に発言にコメントすることもなく、さっさと今日の議題に入りました。

今日は遺産の保全状況報告の続きでしたが、注目は4つあります。今日は簡単にいきます。

1つ目は、ウクライナの『タウリカ半島の古代都市とチョーラ』が危機遺産リストに記載されたことです。この遺産は、ロシアが2014年にウクライナのクリミア半島に軍事侵攻して以来、遺産保有国であるウクライナが遺産に立ち入ることができず、諮問機関もモニタリングができないため、衛星画像を使った解析を行ってきました。その結果、遺産の内部や周辺に新しい建物がいくつも建てられているほか、考古学的文化財もロシアに持ち去られたことが確認されたため、「潜在的な危機」と「明白な危機」の両方に該当するとして、危機遺産リストに記載されました。

委員国であるウクライナが発言できないため、おそらくウクライナからの働きかけに賛同したポーランドが、ロシアを非難するステイトメントを出し、いくつかの国が賛同しました。決議後には、決議内容を認めないとするロシアとウクライナで、相互を非難するコメントがありました。この遺産は、登録翌年からずっとこの状態なので、危機遺産リスト入りするのが遅すぎたくらいだと思います。危機遺産リスト入りする根拠すら取りに行けない状況だったということもありますが。

2つ目は、今日の審議の7割ほどを使った(という肌感覚)だった英国の『ウェストミンスター宮殿、ウェストミンスター・アビーとセント・マーガレット教会』と『ロンドン塔』の保全状況報告です。2つの遺産はとても近くにあるのですが、近隣でのOUVに影響を与える開発による景観破壊などが問題となっており、英国がリアクティヴ・モニタリングを受け入れるかどうかなどが審議されました。最終的に、ウェストミンスターはアドヴァイザリー・ミッションを受けて2028年の第50回世界遺産委員会で審議を受けること、『ロンドン塔』はリアクティヴ・モニタリング・ミッションを受けて2027年の第49回世界遺産委員会で、危機遺産リスト入りも視野に入れて審議されることになりました。都市開発の問題は、多くの世界遺産に関係のある問題なので注目です。英国からは、保全状況報告で事前に諮問機関などとコミュニケーションがとれないことに不満も出ました。

3つ目は、スリナム共和国の『パラマリボの歴史街区』が、危機遺産リストに記載されたことです。火災後に新築された国会議事堂がHIAも行われず、OUVにネガティヴな影響を与えるものであるということが原因です。

4つ目は、日本の『琉球王国のグスク及び関連遺産群』と『佐渡島の金山』の保全状況報告が審議なく決議されたことです。日本でも事前に報道されたように、『佐渡島の金山』については、関係国と連携しながらOUV以外の時代を含む鉱山としての全ての歴史の説明をすることも求められています。これは第50回でまた審議されます。日本は委員国ではないので関われませんが、OUV以外の説明をどこまですべきなのか、インタープリテーションが重視されていく中で、なかなか難しい問題だとも思います。

ここ2日ほど、このブログでは政治的なやり取りばかり取り上げてしまいましたが、こうした話題は世界遺産委員会の議論の中では本当にわずかな時間で、多くは遺産の保護のあり方や法的根拠、細かな文言のすり合わせなどが行われます。国際会議なので政治的な話題とは切り離せないですが、それはほんの一部であるということだけ、書いておきたいと思います。僕の書き方が悪いのですが・・・すみません。

(2026.07.23)