■ 研究員ブログ231 ■ 第48回世界遺産委員会④:長い濃い一日

今日も雲ひとつない快晴です。日差しは暑いですが、海から気持ちのよい風が吹いていて、湿気も控えめな感じです。歩くと汗ばんできますが。

今日は内容の濃い一日でした。イ議長も今日の最後に「長い一日でした」って言ってたほどです。

さまざまな議論が行われましたが、注目した議論が3つありました。

1つ目は、関係国が協議を行った上で『エルサレムの旧市街とその城壁』『ヘブロン:アル・ハリールの旧市街』『オリーヴとワインの土地-バッティールの丘:南エルサレムの文化的景観』『聖ヒラリオン修道院/テル・ウンム・アメル』の4つの遺産の保全状況報告を審議なしで決議したことです。ヨルダンが代理申請したエルサレム以外の3つの遺産はパレスチナの遺産です。

これはイスラエルによるパレスチナへの軍事攻撃を非難し、パレスチナの文化遺産や人々を守るために国際社会が連帯することを示す意味がありました。当然イスラエルは、パレスチナ側がイスラエルに対する事実に基づかない非難を繰り返すもので、世界遺産の保全には何ひとつ役立たないと反発します。そしてイスラエルは世界遺産条約を遵守し、この地域の文化遺産の保護にも積極的に取り組んでいるとコメントしましたが、特にフォローする国もなくかなり孤立しているように感じました。イスラエルのコメント後には、トルコが再びパレスチナの世界遺産の置かれている状況に強い懸念を示し、UNESCOのガザ・アクションプランに拠出を呼びかけました。

これは午後に行われたレバノンの『フェニキア都市ティルス』の審議にも関係しています。ティルスの保全状況報告に対して危機遺産リスト記載が勧告されていましたが、多くの国が危機遺産リスト入りを支持し、『フェニキア都市ティルス』は危機遺産リストに記載される決議となりました。この背景には、イスラエルによる軍事攻撃があります。イスラエルという名指しは決議文には入っていないですが、各国は何度もこの地域が「hostility(敵対的な暴力行為)」にさらされているとコメントしていました。

当然この決議にもイスラエルは、自分たちに文化遺産を攻撃する計画はなく、ティルスとレバノンの人々の脅威となっているのは、武装組織のヒズボラが軍事拠点としていることだと反発します。そしてイスラエルの攻撃でティルスの文化遺産が何か被害を受けたとしても、それはヒズボラの軍事拠点を破壊した時に偶発的に起こったものであると主張しました。

これに対してスペインは、イスラエルの名前は出さずに、他国の爆弾や戦車はない方がよい、レバノンが自国の遺産を守れる状況を国際社会が作っていかないといけないとコメントし、チュニジアもそれに賛同しました。国際社会でイスラエルが孤立しているのを目の当たりにしたような感じがしました。日本にいるとあまりわからないですが。

2つ目は、ウクライナの『キーウ:聖ソフィア聖堂と関連修道院群、キーウ・ペチェルーシク大修道院』『リヴィウ歴史地区』『オデーサの歴史地区』の3件の保全状況報告が審議なしで決議されたことです。3件とも危機遺産リストに記載されている遺産です。

これにロシアはすぐに、この決議には世界遺産と関係のない政治的な事柄が含まれていると反発し、ロシアがウクライナの文化財の破壊に責任を負うことに断固反対すると主張します。それに対してウクライナがすぐに反論コメントをしただけでなく、NGOのワールド・ヘリテージ・ウォッチが、「ロシアは世界遺産委員会の場にいる資格はない」と、かなり強い言葉で批判をしました。昨年よりも更に強い非難がロシアには向けられているように感じました。ロシアは感情的になるのではなく、自国の立場を示す発言という感じでした。

長くなってきたので、3つ目は短く。

3つ目は、保全状況報告において、委員国が自国の遺産に発言する権利をもつかどうかという議論です。新規遺産の登録審議では、委員国は自国の遺産の審議で発言できないと明記されていますが、保全状況報告ではそれが書かれていないのではないかとバングラデシュが質問し、リーガル・アドヴァイザーも交えてかなり長いこと議論が行われました。国際会議は、明確な法的枠組みに基づいて行われなければならないことが大前提だということを、再認識しました。それがないと決議の根拠がなくなってしまうので。委員国と他の締約国との立場や責任の違いなどの話題にもなりましたが、結局明確な答えは出ず、自国の遺産の保全状況報告では発言を控えるという慣例に従って今回は進められることになりました。

長くなってしまい、すみません。明日も引き続き、保全状況報告です。

(2026.07.22)